競り落とすには度胸が必要
中橋睦男
トップページ > ニュース > 令和2年度 蟹と水仙の文学コンクール 優秀作紙上紹介
福井県越前町主催、福井新聞社共催の令和2年度「越前 蟹と水仙の文学コンクール」の入賞者が決まった。全国に誇る同町の魅力「越前がに」や「越前水仙」を題材にし、そこに「希望」のテーマを加えた詩と俳句を募集。詩部門に572編、俳句部門に3548句が寄せられ、両部門で大賞、奨励賞、佳作などが選ばれた。小学生の部から一般の部までの大賞8点、奨励賞15点を紹介する。
詩
大賞
【小学生の部】
「水仙に希望をたくそう」
阪下 雄亮(朝日6年)
水仙が ゆらめくよ
水仙のかおりが鼻をくすぐる いいかおり
人間来たら 笑ってる
ニコニコしながら 笑ってる
「いらっしゃい、こんにちは。」
水仙に心ひかれる人間は、
晴れやかな気持ちで見ているよ
水仙がみんな笑ってる
人間もみんな笑ってる
地球のみんな笑ってる
わらってすごすと、
いつの間にか希望がかがやき始める
水仙がゆらめくよ
いまから人間かえってく
水仙首ふりあいさつだ
水仙は、次の人を待つために
ニコニコしながら海を見る
【中学生の部】
「ピース」
向井 さくら(社2年)
「かにはのぉゆでると赤くなるんよ」
弟に教えてあげた。
そして、
「おまえは つらいこと のりこえて
おいしーなっとるんやな」
つやつや ホワホワしている
かにを見て つぶやいた
久しぶりの贅沢なごちそう
この日・この時・この時期に
ピースしているかにを見て
笑っている弟を見て
「おまえは 幸せなやっちゃ」
と、
思わないことはできなかった
そう。
必ず明日はくるんだ
かに持って
ハイ ピース
【高校生の部】
「小さな『いつもどおり』」
佐々木 悠羽(丹生1年)
今年
たくさんの「いつもどおり」が失われた
ウイルスが流行して
何をするにしても「自粛」は大体ついてきて
「いつもどおり」の日々はいつになったら戻るんだろうと不安になって
これからのことを考えると暗いことばかりが目に付くようになった
でも、きっと
きっと、水仙やかには「いつもどおり」なんだろう
水仙はいつもどおり綺麗に育つのだろう
かにはいつもどおりたくさんとれるのだろう
そうして、いつもどおりたくさんの人を笑顔にするのだろう
そんな小さな「いつもどおり」が、私に前を向かせてくれる
さあ、明日も頑張ろう
【一般の部】
「読書灯」
草野 青人(神奈川県鎌倉市)
新月になればあとは少しずつ水仙が
咲き
三十日かそこらでめぐるには月も忙しいね
海のうえに
月が満ちるにつれて
頭のてっぺんが
あたたかくあたたかく
なっていくのは
月の摩擦だろうか
こうやっていま
あかるい空をみあげているとくもの
糸のように月の光りが
目の前へおりてきているような気がした
たまには
違う道を歩く
月にからまらないように
忙しいねと言った人は
ひと月にいっぺんしか帰らない
すぐに寝てしまって
水仙の群れが
たんぽぽになるまで
夜のすきまにしか話せないから
あなたの眠る
太陽の昼間
へやをくらくして
安心をして眠られるように
光りをためた水仙の束を枕元において
その灯りで私は
本を読むのだ
奨励賞
【小学生の部】
「チョキチョキハサミ」
大塚 啓翔(朝日6年)
カニのハサミはえものをつかんで
チョキチョキチョキ
おいしいおいしい
チョキチョキチョキ
栄養つくぞ大きくなるぞ
チョキチョキチョキ
カニのハサミは敵と戦う
チョキチョキチョキ
家族を守るぞ
チョキチョキチョキ
絶対負けない
チョキチョキチョキ
カニはハサミで手をふるよ
チョキチョキチョキ
大きくなれよ子どもたち
強くなれよ子どもたち
さようならさようなら
チョキチョキチョキ
「ばあば 大すきだよ」
鈴木 さくら(四ケ浦1年)
ばあばは いっしょにあそんでくれる
大すきだよ
ばあばはね
いつもしごとばで かにをゆでているよ
大きなおなべで ゆでているよ
けむりが もくもく出ているよ
ばあばはね
かにをとりにもいくんだよ
ばあばはね
かにをおうちにもってかえってくれるよ
ばあばのかにはね
おいしいよ
でもね
はさみは こわいな
大きくなったら
ばあばのおしごとてつだうね
【中学生の部】
「あの日の光」
嘉奈 秀太(越前3年)
僕はあの日見た光を忘れない
カニを乗せた船の希望の光だ
港は活気ある人でいっぱいだ
その港で一際めだつその光に
僕は目を離せなかった
カニを目当てに港に来る人の姿
カニを捕ってきた漁師達の姿
まぶしい船の光
その光景を見て僕は思う
この空間がずっと続けば良いなと
そう思わせるほどに
あの光、そして光景は
人々に希望を与える物なのだ
またあの光景を見られると思うと
僕の魂を揺さぶるような
熱い何かが込み上げてきそうだ
「この水仙のように」
梯 楓(社2年)
今の日本
それは、とても平和な国
「日本は平和でよかった。」
そうつぶやくと
「でも他の国の人は可哀相だよね。」
とお父さん
そうだ、他の国では
今も戦争が起きている。
国民は悪いことをしていないのに。
私は悲しくなった
戦争は決して良いことではない。
いつかは全ての国が平和に
そして豊かになってほしい
そう思い、私はふと庭を見た
そこには水仙が咲いていた
白くて綺麗な水仙が。
世界中がこの水仙のように
綺麗で平和になればいいのに。
あれから一年
今年も水仙の咲く季節がきた
庭に咲いた水仙をながめる。
白い水仙に透明の水滴が滴っていた
「あのとき見えない場所で起こっていた戦争は終わっているのかな」
私はぼそっとつぶやいた
来年もきっと
この水仙を見てつぶやくだろう。
【高校生の部】
「水仙」
中村 佑香(兵庫県伊丹北2年)
似たような表情纏って
はみ出さないように
ありふれたマネキンは
ベルトコンベアーに乗せられて
歯車になって消えていく
見せかけの希望を語る 作り笑いの大人たち
足早に過ぎ去っていく
嘘と日常に溺れて 速くなる呼吸
従順に生き永らえるくらいなら
水面に向けて足掻くのをやめて
首に手を当てて 奪ってしまえれば
どれほどいいだろう
深い水底に向かっておちていければ
どれほどラクだろう
水仙よ 誇り高き早春の花よ
気高き君の横顔 緑に映えた白き花
頭に黄色い帽子を被って
優しく儚く笑っている
光が流れるように散る君であったとしても
今日ここに咲く命
「あなたを信じておいきなさい
目指す道はその手が示すわ」
可憐な少女は空を向く
その輝きに明日を見る
【一般の部】
「台所」
大江 豊(愛知県一宮市)
甘エビばかり
食べていたお母ちゃんが
七回忌を過ぎた頃からだろう
縄で絡げた蟹をぶら下げて
卓袱台の真ん中にひろげて見せた
きょうは 勝手口から
ゴム長靴で お帰りだよ
お父ちゃんの
身代わりになって
玄関から帰るようになって
勝手口から出入りする者はいない
帰って来たのは やっぱり
お母ちゃんで 蟹をぶら下げていた
でも ゴム長靴は 一足で
ふたり分 花のように
襟首を開いた
あの頃の上がり框だ
履くよりも脱ぐ方が手間取った
お帰りの時間が そのまま
卓袱台まで続いていた
お父ちゃんの真似はできないねぇ
それでも ぶら下げた蟹は
あの頃の裸電球のように
変わらないねぇ
やっと ひとり言でも
誰のためでもない じぶんのためにねぇ
もぎ取っては ありがと よっ と
ひとりでふたり くちずさんで
いられるようになった
酒が 注がれ
甲羅にも 酒が 注がれ
夜更けから 軒先に
氷柱が 垂れ下がって
明け方まで どれくらいの
長さになるだろうか
「瓶詰めのふるさと」
花澤 愛(坂井市)
呼び止められた 一筋のふるさとの香り
旅に出たアムステルダムの花市
極彩色にうもれていたのに
すいこまれた白い香水の瓶
黄色いキャップ
ガラスの中の水仙
遠い街でみつけたわたしのふるさと
連れて帰ろう
そっと息を吐いた 包みこむふるさとの香りを吸い込んで
住んでいたダブリンの街
灰色に疲れていたのに
水仙色に塗り替えられたオフィス
ひと霧
手のひらサイズの水仙
どこにいてもそばにいてくれるわたしのふるさと
今日も前を向く
目を瞑った 囲まれたふるさとの香りに思わず
ここはどこだったろう
もうあの香水はなくなってしまったのに
背中を押し続けてくれたあの香り
ゆっくりと目を開いたら
咲き乱れる越前水仙
帰ってきたふるさと
ただいま また一歩ずつ この香りとともに
詩・講評
選者代表 川上 明日夫
選者代表 荒川 洋治
コロナ禍に希望の言葉
小学生の部大賞の阪下雄亮さん「水仙に希望をたくそう」は、暗いコロナ禍の時代、水仙の花を通して地球も人間もみんな笑って明るく過ごしましょうという未来へのメッセージが新鮮な希望に。
中学生の部大賞の向井さくらさん「ピース」は、カニのハサミを擬人化した社会への眺めが面白く、ユニークな一編になった。明日への希望に、ぜいたくなユーモアを交え、明るい前向きな姿勢に心から拍手。
高校生の部大賞は佐々木悠羽さんの「小さな『いつもどおり』」。コロナ禍でたくさんの「いつもどおり」が失われてしまったが、水仙もカニも人間も命あるものは、きっと明日を信じ生きていくにちがいない。いつも通りのそれが心の力、希望となることをみた。
◇ ◇ ◇
一般の部大賞には、草野青人さんの「読書灯」が選ばれた。日記に収まるような情景をもとに、こまやかに構成された詩だ。一見して、淡泊と思われる表現にも、精彩があり、随所で魅せられる。ここに置かれたことばやフレーズの、ひとつひとつを、ゆっくり味わいたくなる。そんな詩の世界だ。今回のテーマ「希望」につながる、心のうごきがまばゆい。この他にも、すぐれた作品が多数寄せられた。
俳 句
大 賞
【小学生の部】
「きょうだんに水仙かざる君がすき」
七條 美優(滋賀県平野5年)
【中学生の部】
「思い出は越前がににつまってる」
伊部 叶稀(織田2年)
【高校生の部】
「水仙の香り漂う海の声」
熊野 翔哉(丹生3年)
【一般の部】
「ずわい蟹提げて結婚決めに行く」
野口 善雄(越前市)
奨励賞
【小学生の部】
「水仙はいつも聞いてる波の音」
森川 翔梧(四ケ浦6年)
「カニの手を空高く上げブイサイン」
松本 遼(織田3年)
【中学生の部】
「どっしりと越前蟹の目の細く」
水野 結雅(愛知県守山1年)
「水仙やコロナに負けぬ強い花」
濵谷 真衣(朝日2年)
【高校生の部】
「水仙のかおりがふわりと背中押す」
岩﨑 吏玖(丹生2年)
「母なる海命の恵越前蟹」
高島 朋加(丹生2年)
【一般の部】
「帰港待つマスクに蟹の大漁旗」
久保田 聡(神奈川県川崎市)
「水仙やグループホームの丸き卓」
大森 弘美(鯖江市)
俳句・講評
選者代表 坊城 俊樹
感動や心ばえ鮮明に
【小学生の部】大人の句と異なり子供の句なのだから、まさにその心をそのまま俳句にしてもよい。「すき」といった主観的な言葉、「ブイサイン」のような気持ちの高ぶりの言葉が入っているからこそ子供の句だ。こんなコロナの時代だからこそ自由にやればよい。
【中学生の部】人事的な句が多いのだが、それも当然のことと思った。俳句はこの年代になると、家や友人たちとの関係性が大切な要素になってくるからだ。そして最も大切なのは、句の感動が大人ともまた異なる作者本人だけのものになりつつあるということ。
【高校生の部】大賞の句などでもわかるが、もう俳句としての余韻が大人以上のものになっている。恐らくは波や風の音なのだろうが「海の声」という抽象性が季題と響き合っている。この子たちが大人になるまで、こうした句をずっと続けて作ってほしいものである。
【一般の部】「蟹(かに)」や「水仙」をテーマとして作ると、ご当地の食や花の宣伝だけの俳句になりやすい。今回はそれに加えて「句」の「心」がそれらの季題をいかに諷詠しているかに焦点を当てられたと思う。どの句にも作者の人生の心ばえのようなものが鮮明になっている。
佳 作
【詩】▽小学生の部 時田美和(朝日6年)内藤萌日(同)神﨑翔士郎(四ケ浦1年)▽中学生の部 井川桃(鷹巣1年)佐々木一椛(越前3年)廣辻伊吹(社2年)▽高校生の部 嶋田太一(三国2年)▽一般の部 三ツ谷直子(京都府)中澤眞美(長野県)成田祐美子(越前市)
【俳句】▽小学生の部 冨田丞之佑(織田3年)竹内悠翔(平泉寺5年)木本心太(朝日4年)▽中学生の部 梶間太陽(朝日1年)渡邉快(同)佐々木柚月(織田1年)▽高校生の部 西中蒼太(丹生2年)黒川美有(福井農林3年)水嶋一翔(丹生1年)▽一般の部 松井政典(三重県)竹浪誠也(青森県)久保良勝(愛知県)
越前町商工会長賞
【俳句】▽小学生の部 轟弥雅(織田2年)▽中学生の部 青山琉夢(朝日1年)▽高校生の部 北村美和(北陸3年)
県農協組合長賞
【詩】▽小学生の部 松村麻稟(朝日6年)▽中学生の部 岩本智美(越前2年)▽高校生の部 石川陸哉(福井農林3年)
越前町漁協組合長賞
【詩】▽一般の部 友廣勇介(鯖江市)
【俳句】▽一般の部 安川浩江(越前市)
越前町観光連盟会長賞
【詩】▽一般の部 林千雅子(福井市)
【俳句】▽一般の部 倉谷重瑠(敦賀市)
選 者
【詩部門】荒川洋治(現代詩作家)、川上明日夫(詩人)、藤井則行(詩人)、今村秀子(詩人)
【俳句部門】 坊城俊樹(俳誌「花鳥」主宰)、水上啓治(幹俳句会代表)、和田てる子(「雪解」同人)、村田浩(俳人協会幹事)