10日先の天気を見て仕入れ
中瀬康雄
トップページ > ニュース > 蟹と水仙の文学コンクール優秀作紹介 詩、俳句の大賞8点、奨励賞17点
福井県越前町主催、福井新聞社共催の「平成23年度 蟹(かに)と水仙の文学コンクール」の入賞者が決まった。全国に誇る同町の魅力「越前がに」と「水仙」を題材にした詩と俳句を募集。詩部門に663編、俳句部門に4281句が寄せられ、両部門で大賞、奨励賞、佳作が選ばれた。詩、俳句それぞれの小学生の部から一般の部までの大賞8点、奨励賞17点を紹介する。
選 者
【詩】荒川洋治(現代詩作家)、岡崎純(詩人)、川上明日夫(詩人)、藤井則行(詩人)
【俳句】星野麥丘人(鶴主宰)、加畑霜子(雪解同人)、野上山椒子(ホトトギス同人)、吉田透思朗(海程同人)、早川冬果(鶴同人)
詩
大 賞
【小学生の部】
かにに乗って
大江 一成(四ケ浦6年)
歩くのがめんどうになったので
想像してみる。
山を歩き回っているかにをつかまえて
中に乗り込む。
コックピットにすわり、
家までのルートをセットする。
一直線で五分ちょっとと出る。
決定ボタンをおす。
ものすごい速さで
木や石が右から左に飛んでいく。
石の段差で小さなジャンプをして
おしりが痛くなる。
最悪のすわり心地のまま家に到着する。
乗り物よいのため、しばらくねこむ。
おやつを残す。
その日は遊べないまま
夜になってしまう。
結論。
自分で歩いた方が
一番得だとわかる。
【中学生の部】
フラワーメモリー
田中 麻梨(織田1年)
「おばあちゃん、ただいま。」
ひさしぶりに会った
私の手には、たくさんの水仙
それをおばあちゃんに渡して
仏壇の前に行く、一輪だけ持って
「帰ってきたよ。」
私が生まれる前に天国へ行ったおじいちゃんと
おばあちゃんに会いに行く
そうしてたら
「ただいま。」
皆が帰ってくると、テーブルの真ん中に水仙をおく。
私が帰る時になると
持ってきた水仙がきれいに咲いて
私との思い出が
また一つ増えていく。
【高校生の部】
水面へ
小木 麻莉子(仁愛女子3年)
どれだけ目をみはっても
到底かすんで見えない私
水たまり作ってどうするんだ
海にでもなるのかい
どれだけ耳をすましても
心の奥底は返事してくれない
ドクンドクンじゃ分からないよ
もすこしゆっくり生きてみたい
首をもたげて
水辺に座ってみても
やっぱりかすむ、遠くで耳鳴りひびく
本当の私
見えない私
もすこし背が高かったらよかったかい
もすこし色が白かったらよかったかい
うつしてくれたら本望だ
全部見えりゃあわけないよ
美しいナルキッソス
きみは水面にうつるその白を
ずっと見ていたのだろう
ずっと、見ていたのだろう
【一般の部】
三つの袴
水谷 美枝子(坂井市)
シャッ シャッ シャッ
羽織袴の男衆が
衣擦れの音と
箪笥の匂いを放ちながら
嫁どりの家に集まってくる
赤々と燃えている囲炉裏の鍋からは
おいしそうな匂いが立ちのぼり
女衆の笑いが 言葉がはじけている
やがてお座敷では
羽織袴の花婿と うつくしい花嫁を囲んで
高お膳の御馳走を前に
にぎやかな宴が始まる
宴たけなわになると
『でられましょう』と言いながら始まる
にわかの 即興的で滑稽な歌や踊りは
テレビのない時代の
最大の楽しみであった
学校の帰り道
春先の
ときおり馬車が通る石ころ道の土手に
つくしを見つける
みんなが走り寄り
われさきにとつくしを摘むと
冠のような袴を
指でむしりとる
ショリ ショリ ショリ
口を動かすみんなの目が
笑っていた
家にお説教がある前日
母は 畑から 水仙をとってきた
「水仙を活けよう 長短をつけるため 袴を
はきかえさせてのう」
母はそう言って 指先で
水仙の袴をそっともんでいく
袴が少し柔らかくなったころをみはからって
花のついている茎を静かにぬく
今までまとまっていた数本の葉っぱと花が
ばらばらにくずれて
白い袴が 手の中にころがる
母は
水仙を元のように整えて短く切り
はずした袴をはかせた
パッン パッン パッン
私は
母に真似て 何本もはきかえさせると
丸くて真っ白い水盤に活けて
床の間に飾った
実家の畑の隅に
昔と同じように 今なお咲き続ける水仙の花
私は
両手に摘んだ水仙の甘い香りの中で
六十年近く前の私に
そして三つの袴に
なつかしさのあまり
思いっきり素敵な笑顔を送った
奨励賞
【小学生の部】
「えち前みさきに行ったよ」
加藤 真代(糸生3年)
えち前みさきにドライブしたよ。
おかにのぼると、
水せんがいっぱいいっぱいさいていたよ。
青い空と海が広がっていたよ。
白いとう台もあったよ。
わたしは、水せんの花がとてもすき。
いいにおいだし、
ちっちゃな星のような形をしているから。
まん中のきいろのカップもかわいいから。
わたしは、なぜかちっちゃい花がすき。
水せんたちは、つめたい風にふかれて
おどっているようにゆれていたよ。
お兄ちゃんとわたしも、風にふかれて
水せんの道をかけっこしたよ。
水仙の子もりうた
森崎 智哉(織田4年)
ぼくのおばあちゃんの家には、
毎年冬になると水仙の花がさく。
ぼくは、おばあちゃんが、いけてくれた、
水仙のそばで、なんだかいい気持ちになって、
いつもお昼ねをする。
なんでかな。
水仙が、子もりうたをうたってくれるのかな。
冬の青空をつきぬけるみたいなすがすがしい
水仙の香りがドレミファソラシドの音ぷになってぼくにうたってくれるのかな。
水仙の子もりうた。
今年は、どんなうたをうたってくれるのかな
楽しみだ。
【中学生の部】
主役の蟹
上田 勇人(織田2年)
グツグツグツ、グツグツグツ、今年も蟹の季節がやって来た。
ドサッ、真っ赤になった蟹がテーブルに並ぶ。
周りがどんなにごうかな料理でも決して
色あせない鮮やかな赤色。
みんなが蟹に手をのばす。バリッバキッバリッ
耳に響く音がしてくる。
去年も食卓に並んだ真っ赤な蟹。
今年はよりおいしそう。
バリッ、バカッ、足や中の身では、まるで別の食べ物だというように、様々な味が飛び出してくる。
まるで食べ物のマジックボックスだ。
今年も食卓に並んだ真っ赤な蟹。
やっぱりとてもおいしい。
ごちそう様、みんなが手を合わせる。
また、来年も食べたいな。この色あせない真っ赤な蟹が。
お父さんのカニなべ
氏家 茉聖子(越前3年)
寒い冬がやってくる
この時期になると父のことを思い出す
なぜなら…
父の作るカニなべが絶品だったからだ
母でもなく 祖母でもない
父の味が美味しく
幸せになるのだ
カニと大根のコンビがやけに合って絶妙だ
父が天国に行って二年…
向こうでもカニなべを作っているだろうか
みんなに幸せを分けているだろうか
お父さん…
カニの時期になると
たまらなくお父さんを思い出すよ
【高校生の部】
だってそれが『個性』ってものだから
五十嵐 彩乃(仁愛女子2年)
プクプクプク
ポコポコポコ
今日は歌の発表会
みんな上手に歌ってく
さーて次はぼくの番
ブク…ブ、ブブブ…ブク?
ボコ、ボ…ボボボボ…ボ
あれ? おかしいなぁ
みんなが笑う
ぼくは歌が下手だ
でもぼくはそれでもいいと思ってる
だってそれが『個性』ってものだから。
ボクのはさみは片方しかない
生まれたときからずっとそう
でもボクは一度も恨んだことはない
パパもママも神様も
みんながじろじろボクを見る
珍しそうに 不思議そうに
でもボクはちっとも気にしない
だってそれが『個性』ってものだから。
腕につけられた黄色いタグ
これは僕が越前ガニである証
とっても誇らしそうに見えるでしょ?
でも…本当はこんなもの必要ない
人間はいつもそう
すぐに順番をつけたがる
学校でも会社でも
いつでもどこでも絶対そう
順番なんて関係ない
人がああだから自分はどうだなんて関係ない
自分は自分
人は人
だってそれが『個性』ってものだから。
人間は悲しい生き物
すぐに人と比べたがる
でもね、
みんなが同じじゃつまらない
一人一人が全く違うから
支え合えるし、助け合える
ずっと努力を続ければ
『個性』はいつか『光』になる
『光』はいつか『力』になる
『個性』はたった一つの宝物
あなただけの宝物なんだから。
蟹
酒野 憲幸(北陸3年)
蟹はどうして解に虫と書くのだろうか
大昔には陸に住んでいて虫をバラバラに解体していたのだろうか。
それとも逆に虫にバラバラに解体されていたから海ににげたのだろうか。
どちらにせよ今は人にバラバラにされている。
ああ、解体しやすいから蟹と書くのかもしれない。
物を解体するためのハサミを持っているのに
自分が解体される側にいるなんて皮肉すぎる。
そりゃ虫とよばれても仕方がない。
【一般の部】
蟹のつぶやき
槇野 博(大阪府吹田市)
貴方のおっしゃる通り
わたくしが とやかく言える
立場でないことは
重々承知しております
どのように
お召し上がりいただいても
何の不服もございません
名前は勢子(セイコ)と申します
身重の女ですから
足首が細いね と言われるのは
嬉しゅうございます
北陸の いい湯だからと
すこし熱い温泉に浸かり
躰が火照って のぼせております
先ほど
素敵な殿方と目があって
どきどきして うつむいた時
コンタクトを失くしてしまい
すみません お騒がせしました
あちらからも こちらからも
お声がかかり
大忙しでございます
御膳にお伺いする その前に
故郷 越前の海を
はっきりと
この眼に焼き付けて おきたくて
いえもう 探さなくて
結構でございます
鋭い爪のマニュキアも
きれいに洗いおとしました
さあ どうぞ! どうぞ!
煮るなり焼くなり
思う存分この身をさらして
わたくしの一生を ご賞味ください
貴方のお顔が
日本海の夕日に染まり
喜びに染まり
このわたくしの恋情に
一瞬でも
気持をとめて くだされば
ほくほくと 幸せな
思いでございます
荒波が育んだ祈りをこめ
黄色い指輪を貴女に贈ろう
『越前蟹』としての
プライド に
そして
紅い湯文字に透けてみえる
未来への熱いときめきと
その味覚に
心 ほころばせ
「美味しかった!」と
トンネルの中のナルキッソス
本田 しおん(東京都武蔵野市)
地下鉄に とび乗り
吊り革を握ると
目の前の窓硝子に
銀鏡反応が 起こり
池が出現する
すると
もうひとりの自分が現れ
こちらに向って
ウインクを投げかける
私も ウインクを返すと
得意満面の笑みを浮べる
そんな見過ごしてしまいそうな
何の変哲もないパラドクスに
どっぷりと浸っていると
私はニンフとなり
水仙のかほりに 包まれる
そして
もう一駅だけ
乗り越したくなる
地下鉄に とび乗り
ドアに凭れかかると
目の前のドア硝子が
銀鏡反応を 起こし
神話を読みきかせてくれる
すると
この車両にいる乗客は
越前の潮風に耐える
水仙のコロニーとなり
満開の白い花を 自己主張し
物悲しげな笑みを 浮べる
そんな見過ごしてしまいそうな
何の変哲もないプロビデンスに
どっぷりと 浸っていると
失恋したことも忘れてしまい
水仙のかほりに 包まれる
そして
何故か終点まで
ドアに凭れかかっていたくなる
地下鉄の車内からは
ギリシャ神話が 溢れ出し
トンネルの中で
ナルキッソスとの疑似恋愛を
体験させてくれる
そして
見過ごしてしまいそうな
何の変哲もない
大切さを 教えてくれる
孤なるかな、水仙
神坂 信(越前市)
水仙は
漂流の一個の球根から
はじまったと言う。
ギリシャ神話の女々しい男の
伝説が固定観念を作ったのか
しかし
灰釉の炎の流れる越前焼の
壷に、密に挿しても貝の付着した
蛸壷に、一本挿しても足りる
水仙は、孤なる花
断崖にへばりつく様に
一面に咲き
日本海の寒風に堪えて来たのは
孤なる花であるからだろうか
亡き母と炭を背負い越えた
くりや峠から
原発建屋が白々と見える
この峠より海になだれる崖に
したたかな強さと
ねばり強い、水仙の白は
今
もっとも重い白さかも知れない
海女たちの足幅だけの径が
思惟のように
水仙の中を、通り抜けている。
俳 句
大 賞
【小学生の部】
水仙を届けてあげたい被災地へ
山田 拓斗(城崎6年)
【中学生の部】
水仙を祖母と探して歩きけり
福田 美空(朝日1年)
【高校生の部】
越前のかにざんまいの旅の宿
仲下 未憂(仁愛女子1年)
【一般の部】
独り居の余生の贅やせいこ蟹
山口 美智女(越前市)
奨励賞
【小学生の部】
すいせんがかぜといっしょにおどってる
森下 音和(城崎1年)
越前ガニみんなを笑顔にしてくれる
笠川 可音(織田6年)
【中学生の部】
水仙をもらった祖母がほほえんで
齊藤 有未(朝日2年)
水仙が見守る坂を登下校
荒木 太一(越前2年)
【高校生の部】
蟹ゆでて鐘の音を聞く大晦日
稲垣 智誉(仁愛女子3年)
陽をあびて波の音聴く野水仙
青山 未彩希(丹生1年)
【一般の部】
越前蟹提げて乗り継ぐ湖西線
西村 さよいち(神戸市)
水仙の村に生まれて母となる
中井 一雄(敦賀市)
佳 作
【詩】▽小学生の部 大枝夏希(奈良県橿原市・真菅北6年)堀山嘉史(さいたま市・仲町1年)山口梨絵(国高6年)田川葵(城崎6年)山田拓斗(同)▽中学生の部 井田光穂(鳥取県米子市・美保3年)冨山華花(朝日3年)渡辺佑紀(同)河原慎悟(名田庄3年)林祐毅(織田1年)▽高校生の部 川﨑愛華(仁愛女子3年)寺山胡桃(同)田島ありす(同)水木保葉(和歌山県橋本市・初芝橋本2年)高嶋麻貴(丹生2年)▽一般の部 後藤順(岐阜市)小荷田康太郎(奈良県安堵町)斎藤しづ子(福井市)竜田道子(勝山市)木塚康成(広島県呉市)
【俳句】▽小学生の部 竹内瑞葵(城崎2年)中嶋智香(小山5年)伊藤敦基(織田6年)堺みさき(城崎3年)矢部晴己(同4年)▽中学生の部 坂井美空(朝日3年)坂口天将(越前2年)中上裕規(朝日3年)山口諒(鷹巣1年)島田佳奈(松陵3年)▽高校生の部 斎藤真由香(仁愛女子1年)泉桃花(同3年)小谷恭世(同)和田麻美(丹生2年)竹内大(同)▽一般の部 小原あつ子(名古屋市)岩間康之(兵庫県加古川市)中川博明(福岡市)米野道雄(南越前町)塚崎てる子(東大阪市)
詩・講評
選者代表 川上 明日夫
選者代表 荒川 洋治
発想新鮮 「世界」広がる
小学生の部の大賞作の大江一成さんの「かにに乗って」は、歩くのがめんどうになってカニさんに乗り込むという、この発想がユニークでした。ボタンひとつでどこにでも飛んで行ける。カニを乗り物にというふうに捉えたところが新鮮な驚きでした。
中学生の部の大賞作の田中麻梨さん「フラワーメモリー」は、水仙の花にたくした願い。水仙を仏壇にあげてこの世にいないおばあちゃんとおじいちゃんに逢(あ)いに行く。帰る頃には水仙が、ほらこんなにきれいに花開いてと。きっと思い出という香りが届いた合図なんですね。
高校生の部の大賞作、小林麻莉子さん「水面へ」は、水の表面にそっと映される虚と実。水仙に私をかさねて見つめる水鏡の向こう、その不思議の迷宮に問いかけるところに詩心が潜んでいました。花である不安や危うさを不確かな未来に訊(たず)ねた自分探しの旅でした。
× × ×
一般の部の「大賞」には、水谷美枝子さんの作品「三つの袴(はかま)」が選ばれた。
祝いのときの男衆の「はかま」、ツクシの節の「はかま」、水仙の「はかま」を順序よくつないで、思い出をたどるものだ。これまでにない新鮮な発想に注目した。ことばの世界がひろがる。そんな楽しさがあるように思う。
奨励賞、佳作にも秀作が多かった。ひとつひとつに、個性と工夫が感じられた。
俳句・講評
選者代表 星野 麥丘人
時事 素直に取り込む
きれいに咲き出した水仙を眺めていたら、ふっと東日本大震災のことが思い出されてきた。できることならこの水仙を被災地に送ってあげたいというのが、小学生山田拓斗君の大賞の句です。時事的な内容を素直に取り入れた佳句といえましょう。
中学生の大賞は、福田美空さんの句です。主観をおさえた中七がよかったと思います。なお、紙上には佳作の発表はありませんが、佳作の中に「ロシア人の墓へも挿して黄水仙」の句のあったことを付記しておきます。(ただし、黄水仙は春の季語)
高校生の大賞は、仲下美憂さんの句です。かにざんまいとは、越前ならではの旅の一夜といったところでしょうか。じゅうぶんに満足したことでしょう。奨励賞の稲垣智誉さんの句も心に残りました。
一般の句の大賞は、山口美智女さんの句です。作者は独り居の余生といっていますから、1人暮らしなのでしょう。「余生の贅」と己に引きつけて詠んだところがよいと思います。奨励賞の西村さよいち氏の句は、把握の自在性を高く評価したいと思います。