漁船と連携し品質を判断
田村幸次
越前鷹巣海岸を走る国道305号線沿い、周りを緑で囲まれた格調高い木造平屋造りの割烹旅館「越前満月」。広大な敷地に部屋数はわずか9室という贅沢だ。四季折々の地元の食材をふんだんに使った本格的な会席料理に加え、冬は越前がにに舌鼓。開放的でゆったりとした空間と、家族で営む温かいおもてなしが心も体も癒やしてくれる。
広い空間でのんびり静かにお食事と温泉を愉しみ、日常を忘れて思い思いの時間を過ごすことができる「越前満月」。一般客室4室、露天風呂付和室3室、露天風呂付和モダン客室2室を完備している。露天風呂とベッドの付いた「露天風呂付和モダン客室」は、より多くの方に宿の美味しいお料理と温泉を愉しんで欲しいという思いから、バリアフリー対応となっている。
「お客様にできるだけおいしいカニを味わってもらいたいから、カニ選びに命を懸けている」と笑うのは代表取締役社長の山田喜一さん。競りには契約する仲買人と一緒に行き、自分自身で必ず堅さや重さを確認する。客の予約や注文に応じて“大中小”のサイズごとに良いカニをしっかりと見定める。仕入れたカニは、カニ専用の水槽で生きたまま保存する。毎日水槽からカニを出して1匹1匹健康チェックを行い大切に扱う。
満月で出す越前がに料理は、フルコースがカニ刺し、焼きガニ、茹で蟹。(カニ鍋またはカニしゃぶをオプションで選ぶことができる。)会席同様、料理に対する細かな心配りがある。
カニ刺しといえば、ぱっと「花が咲いた」状態を思い浮かべる人が多いと思うが、満月では、カニ身を冷水にさらす時間を短くすることであまり花を咲かせないのだという。というのも、身が水っぽくならないようにする配慮からだ。水っぽさがなくなることで甘みも増す。
焼きガニは、備長炭でお客さんの目の前で焼く。女将の美恵子さんは、強く燃えている炭の上に黒い炭を一つそっと置く。「すぐ殻が焦げてしまうから、火をあんまり真っ赤っかにしないよう弱火で焼きます。そして、なるべくレアで焼くようにしています」。客にも好評で、「こんな風にして食べるとおいしいね。焼きが一番おいしいわ」と言われたことも。
ゆでガニにもこだわりがある。「ゆで時間が短いとすぐカニが黒くなる。ゆですぎると味が落ちる。ちょうどいい時間でカニを上げないといけない。それもカニの大きさと堅さでゆで時間が決まります」(山田社長)。多くの失敗の末に絶妙なゆで時間にたどりついた。
カニコースの最後を締めくくるのはカニ鍋(カニすきまたはカニしゃぶ)と雑炊だ。「うちの鍋はおいしいですよ。出汁がおいしい」と自信を持って客に提供する。
満月には“カニ目当て”の多くのリピーターがいる。会席料理のコースにゆでがに、カニ刺し、焼きガニなどのカニ料理をプラスすることも可能だ。
広々とした玄関に足を踏み入れると、「ようこそおいでくださいました」と“看板娘”の美人姉妹がさわやかな笑顔でお出迎え。ゆったりしたロビーで、ナツメ茶をすすりほっこり一息。手入れの行き届いた中庭を眺めながら廊下を進み、客室へ。部屋付き露天風呂(全5室)は、見事に非日常の空間を演出している。好きなときに好きなだけ湯あみを満喫できるのが嬉しい。
「ゆったりとしたお部屋で、ゆっくりと食事してのんびりとお風呂に入ってもらえたら」と社長。越前満月は心からのくつろぎを約束してくれる。