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中瀬康雄
トップページ > ニュース > 2014年7月 > 石川県沖「ズボガニ禁漁」通知 福井困惑「一方的」
脱皮間もない雄のズワイガニ「ズボガニ」(ミズガニ)について、資源保護を理由に石川県の大部分の漁業者が、同県沖での今漁期からの禁漁を決定。同県沖は福井県の漁船も半数以上が操業許可を受けていることから、石川県は12月、福井県に決定内容を文書で通知した。しかし、両県を含む日本海西部1府5県は、今期の資源保護対策として漁期短縮を申し合わせたばかり。禁漁は申し合わせになく、2月1日の解禁を前に、福井県側は通知が「一方的ではないか」と困惑している。(坂下享)
●合意そぐわず
12月6日、石川県水産課の職員が福井県庁に通知書を持参した。「石川県内の大部分の漁業者が、県内沖でのミズガニ禁漁を決めたので、関係機関に連絡してください」との内容だった。
ズボガニを含むズワイガニ漁は、石川から島根までの日本海西部海域の漁業関係者が毎年、漁期などの自主規制について話し合う。今年9月の会合では、石川県側から禁漁の話は出なかった。結局、資源が減少傾向にあるとして福井、石川ともにミズガニの漁期を短縮し、2月1日からとすることで合意した。今回の通知内容はこれにそぐわない。
●繁忙期なのに…
加えて、文書に「大部分」とあるように、現状では石川県のすべての漁業者が禁漁を決めたとはいえない段階。通知を受け取った福井県水産課の担当者は「全県で禁漁を決めた後の自粛要請ならまだ分かるが、このタイミングの文書は異例」と首をひねる。
福井県底曳網漁業協会の上田忠雄参事は「自主規制なので漁業者同士の話し合いが基本だが、こちらには(石川県の漁業者から)話が来ていない」と、正式な要請があるまで静観する構え。仮に要請が来ても「既にズワイガニの漁期に入って関係者は一番多忙な時期。話し合いの場は持てない」と、少なくとも今漁期中に要請に応えるのは不可能との考えだ。
●漁船規模と食文化
一方、石川県水産課の大内善光参事は、通知書の趣旨について「漁業者の思いを代弁した」と強調する。今年春から、ズワイガニ漁について坂井市三国地区と加賀市橋立地区の漁業者が3度話し合った。両県の職員もオブザーバー参加したが、ズボガニのルールについては具体的な進展がなかった。地元レベルでの調整が不調だったため、石川県の多くの漁業者が結束したという。石川県水産課は「県全体の8割超の漁業者が賛同している。解禁日までに自主規制が正式決定されるだろう」と見通す。
背景には、漁船の規模と食文化の違いがある。同課によると、福井県の漁船は加賀沖でも操業するが、石川賢加賀市の漁業者には「多少のしけでも出漁できる三国の大型船が来れば、自分たちの漁獲高に影響を及ぼす」との声が根強い。石川県ではズボガニを食べる習慣がないためほとんど価値がなく、成長して値段の上がる翌年以降に残しておきたいという。
大内参事は「あえて漁期中に問題提起することで、福井側にも石川の漁業者の窮状を分かってもらう必要がある。ミズガニは1年すれば価値が10倍。福井にとっても悪い話ではないはずだ」と話した。
【取材ノート】福井の食文化、冷静議論を
国が管理する「ズワイガニ」枠の漁獲可能量のうち、今漁期はズボガニのほか、雌のセイコの漁期も短縮されている。石川県側の禁漁措置は、セイコの漁獲枠を確保する狙いもある。
福井県の水産課の調べでは、福井県内の漁船が石川沖で捕るズボガニの量は全体の5%程度。昨期の県全体の水揚げは約170トンで、8トン強の計算。この数字を挙げて、「石川での禁漁は福井側がまったく飲めない話ではない」と指摘する関係者もいる。京都府では2008年からズボガニ禁漁を自主規制で行っており、本県の漁業者もズボガニの多い一部海域での禁漁に従っている。
ただ、ズボガニは福井県民にはなじみ深い食材。福井観光コンベンションビューローは、2年前からズボガニを誘客の柱に設定。越前海岸の各旅館は、ズボガニを盛り込んだ宿泊プランを売りの一つにしている。
上田参事は「既に旅館から注文が入っている。需要があるから捕っており、1年後には高く売れるという価格だけの問題ではない」と強調。食文化として定着している以上、本県側としては持続可能な漁獲方法を探りたいのが当然だ。
漁は許可制で自主規制や自粛は“紳士協定”。強制力はないが、資源保護と漁業者の所得向上という課題は、両県に共通のもの。正確なデータに基づいた冷静な議論が望まれる。(坂下)