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刀根瑛昌
トップページ > ニュース > 重油事故 > 県立大が越前ガニなど生態系影響まとめ タンカー重油流出事故で
重油汚染事故に対して、学術的な見地から調査、研究活動を続けている福井県立大の事故研究班は十日、生態系への影響や漁業、環境への影響などについてのこれまでの活動内容をまとめた。漁業・水産業に与える影響は適切な対策を施せば一、二年で回復する部分も多いとしたが、自然生態系に対する被害の厳密な修復には数年から十数年かかるかもしれないとした。また、油臭魚、越前ガニや若狭ガレイなど底生生物への影響については、深刻になるような要素は見受けられないとしている。
県立大には日本海側唯一の海洋生物資源学科があり、海洋生態代謝学、海洋環境工学、海洋生物工学の各研究室が中心となって重油流出事故研究班を設け、現地調査を行うほか、県や環境庁、水産庁など関係対策会議に参画して、学術面からの研究活動を続けている。同研究班では、各分野での影響面や見通しなどについての相談に応じている。
【流出重油の影響】C重油は有害性が低い。岩場のノリや小さな貝類などの岩礁生物は、油の毒性によるものではなく、全体を厚く覆った油によって窒息死したものといえる。
油は徐々に固まって岩の表面やすき間を覆ったり、砂の中にもぐり込んでいく。毒性は少ないながら、分解されないで残るので「持続性油」といわれている。暑くなると溶け出して分散し「石油分解細菌」という天然のバクテリアによって炭酸ガスと水に分解される。しかし、黒く固着したりオイルボールとなった海底や砂中のものは、分解に相当の年月を要するものと思われる。
【汚染と生物の被害】これまでのところ、三国沿岸では水中や海底付近に油塊やオイルボールは見られず、ヒトデや海藻にも油の付着した形跡はない。三国のように外海に面したところでは、絶えず荒波と水流によって海水の交換が促進されるため、油の滞留を防いでいると思われる。海藻は自分で粘質物を体外に排出する性質があり、油で全体がべっとり覆われたとき以外は、水中の油が付着しにくいと思われる。
【今後の被害や対策】三国などの磯(いそ)場は、除去作業によって一時的にその場の生物が害を受けることがあっても、油が除去されれば影響は持続せず、自然生態系と漁業資源の回復は自然の回復力によってもたらされるだろう。岩ノリなどの健全な着生のため、コンクリートによる床張りなど従来からの水産増殖対策も取り入れて、産業と自然環境の調和と保全を図ることが重要。小浜湾など内湾は、今のところ油塊の多くは水際で除去されており、直接的被害は少ないものと思われる。
油臭魚については、C重油はその原因となる成分が少なく、三国のように一過性で開放的な海洋での汚染の場合は、油臭魚の発生は少なくとも深刻ではないように思われる。
水中への汚濁が進んでいるようには見えない現状だが、来春からの幼魚、稚魚の育成のための卵や小さい魚の被害がどうなるかは気がかりで、今後の調査を待ちたい。ウニ、ナマコ、貝類など磯生物資源についても同様。越前ガニや若狭ガレイなど底生生物への被害も気がかりだが、今のところ深刻になるような要素は見受けられない。
漁業と生態系への影響については、出来るだけ迅速に組織的な調査と対策を検討すべき。油汚染が漁業・水産業に対して与える影響は、適切な対策を施せば一、二年で回復する部分も多いと思われる。一方、自然生態系に対する被害の厳密な修復には、数年から十数年かかるかもしれない。この両者を区別して論じることが、混乱を防ぐために大切なこととなる。
【相談の連絡先】郵便番号917、小浜市学園町一ノ一、県立大海洋生物資源学科(小浜キャンパス)=電話0770(52)6300、ファクス0770(52)6003。