越前がにならおまかせ
納谷一也
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20代後半の頃からカニをさばき続けている。毎シーズン1日30杯以上、月に1000杯以上のカニを切り続けること20年。水揚げされたカニを見て、仕入れ、ゆでるまでを幾度となく繰り返してきた。
肉の厚さや足の太さ、色つやなどを念入りにチェックし身がしっかり詰まっているか、指で押して確認してみる。「特に濃い色のカニほど良い」というが、「身がたくさんあったらもちろんおいしいが、薄くてもおいしいものがある。その見極めが難しい」と語る。「(目利きは)あくまでも見た目でとらえる、感覚的なもの。長年やってこないとわからない」見た目と実際のカニの善し悪しのギャップを埋めるのは積み重ねてきた経験。突き詰めれば「どれだけ、さばいたか」だという。
名のある芸能人たちもお忍びでやってくるという望洋楼は自他ともに認める最高のカニを提供することで有名な店。客は多くがリピーターで前年のカニの味を覚えている。「より質の高いものを出さなければならない」というプレッシャーが常につきまとう。
「能書きはいらない。宿で食べておいしかった。それだけでいい。」
刀根さんによると年々良質の越前がにが取れなくなってきている。特にシーズン最初の11月、12月は良いカニを仕入れるのが難しい。そんな中、望洋楼はその日に揚がったトップクラスのカニを確実に競り落とす。数年前、ライバル業者との1杯10万を超える熾烈な競り争いは関係者の間では今も語りぐさだ。
「素材を超える調理はない」。最高の食材「越前がに」の中から、至高のカニを選び抜く目が鋭く光った。(2010年11月)