「赤い、大きな足をとりあげて殻をパチンとわると、なかからいよいよ肉がでてくる」「ひとくち頬(ほお)ばると白い滋味が、冷たい海の果汁が、口いっぱいにひろがる」。開高健さんを魅了した越前がに▼「食べたくて食べたくてムズムズしてくるのをジッと耐えながらどんぶり鉢に一本ずつ落し…アア、ウンといって大口あけて頬ばるのである」(開高健記念館HPより)。ゴクリ、生つばを飲みそうである▼開高さんが”海の宝石箱”と礼賛した越前がに。きのう底引き網漁が解禁された。初日の水揚げは雄のズワイガニがほぼ例年並み、雌のセイコガニは豊漁。漁港は”身元証明書”の黄色いタグを付けたカニがずらりと並んだ▼もちろん赤くゆで上がったカニをそのまま、あるいは二杯酢で味わうのが一般的。また焼きガニ、カニすき、雑炊もいける。だが左党のカニ通、一押しは野趣たっぷり、甲羅酒だろう。緑がかったミソと熱燗(あつかん)の相性が絶妙▼開高さん同様、美食家だった立原正秋さんも推奨した。旧三国町を舞台に小説「その年の冬」で、主人公に「毎年のことながらこの甲羅酒は格別だ」と語らせている▼「日光を見ずして結構と言うなかれ」という格言もある。ここは日本の文人たちをうならせた「福井ブランド」で乾杯。値段は心配無用。幸い、越前がにはズワイだけでなく、手ごろなセイコも用意されている。