丹生古文書会の岡田健彦さん(82)=福井県越前町梅浦=が、冬の味覚の王者「越前がに」の歴史を解説した「越前ガニいまむかし」を発行した。町内外の古文書や漁業関係者への聞き取りを重ねて調べた労作で、室町、江戸期の古文書に記される「大蟹(おおかに)」はタラバガニのことだと解き明かした。
岡田さんは、町織田文化歴史館が4年前発刊した研究紀要に「大蟹」やズワイガニを検証した論文を掲載。今回さらに研究を重ね、冊子にまとめた。
「越前蟹」の記述がある最も古い文献は、室町時代後期の公家、三条西実隆(1455~1537年)の日記「実隆公記」とされる。しかし、その日記には「越前蟹」とは別に、若狭の海で捕れたとみられる「大蟹」の記述もある。
通説では大蟹は「大きなズワイガニ」とされることも多い。しかし岡田さんは、江戸時代に越前町大樟と小樟を飛び地として治めていた大野藩の記録に「大かに」と「ずわい」が区別されて書かれている点に着目。また、同町越前地区の漁業関係者や高齢の住民に聞き取り調査を行い、大蟹はタラバガニを指し、当時ズワイガニより大きくて高値だったことが分かった。
さらに同地区の民家に伝わる古文書を分析。幕末、大野藩の役人が現在の同町小樟を検分した際、上級役人がいた奥の間に「大蟹」、次座敷にはズワイガニが出されたと記されていることから「当時は大蟹の方がランクが上だったのでは」と推察する。
福井県内でとれるタラバガニは、乱獲の影響で明治以降激減。岡田さんは、将来のズワイガニの資源量に目を向け「越前がに漁は漁獲量や利益を追うばかりでなく、資源を保護していくことも大事だ」と指摘。「越前がにの本や史料は非常に少ない。冊子が越前がにの歴史を知るきっかけとなれば」と話している。
A5判、71ページ。千円(税込み)。勝木書店で販売している。問い合わせは岡田さん=電話0778(37)0666。