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越前ガニの食のルーツ BAYわかさ、今攸

1997年03月26日

歴史

 二百メートルよりも深い海底にすむズワイガニが何時ごろから、何処で人の目に触れ、漁業の対象になったのでしょう。

 古事記には応神天皇(西暦二七〇年に即位、三一〇年に没)が近江の国へ入り、そこで出されたカニに呼び掛ける次のような即興の歌が記録されています。

 この蟹や いづくの蟹
 百づたふ 角鹿の蟹
 横去らう いづくにい
 たる(おまえは何処から来たカニか、敦賀から来たカニか、横ばいをしてどこへ行くのか)

 このカニをズワイガニと考えている人もいますが、この時代にズワイガニを漁獲できる能力があったか疑問が残ります。

 一六六〇年代、福井県の若狭湾では、全国に先駆けて、沖網といわれた沖手繰網(風と人の力によって沖で行う底引き網、主にカレイ類を漁獲)と底延縄(一本の幹糸に釣り針をつけた枝糸を多数つけ、マダラを釣る)が水深三百メートルの海域で行われるようになりました。

 元禄八(一六九五)年には、「手繰網という新しい漁法で、海底を底ざらえする者がでて、漁場が荒らされて困るからやめさせてほしい」と越前町小樟などの庄屋・長百姓が連名で奉行所あてに嘆願書を提出しています。

 また、天明五(一七八五)年に描かれた越中魚津浦猟業図絵には刺し網の図が載っていて、そこには明らかにズワイガニと分かる絵が描かれています。

 江戸時代中期、一七二〇年ごろからは各地の産物が幕府へ報告されていて、東北から若狭にかけてのそれらにはズワイガニ、またはそれを示すとみられる名前が記載されています。

 越前国福井領産物(一七二四)には、「取得かたき時節も御座候」と注意書きを加えて、「ずわいかに」とあります。

 学術論文をみると、一九一三年には、石川県や福井県が主産地として、一九三四年には福井県丹生郡四ケ浦が産地として最古の歴史を持つと、それぞれ紹介され、また、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)のズワイガニについて報告した一九四一年の論文によると、福井県における漁業が最も有名で越前蟹と呼ばれ、北朝鮮で最初にカニの刺し網を行ったのは福井県人であると記載されています。

 これらを総合すると、ズワイガニ漁業は漁具、漁法が開発された千七百年前後に手繰網、または刺し網によって、日本海の東北から若狭にかけて漁獲され始めたようですが、越前地方が最も盛んであったと考えられます。

 ですから、「越前がに」はこのカニに最もふさわしい愛称と言えましょう。県は平成元年に県の魚として、ズワイガニとしてではなく、あえて「越前がに」として指定しています。

 今攸(こん・とおし) 県水産試験場長。北海道生まれ。県水産課参事を経て平成2年から同場長。敦賀市平和町。


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