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カニの甲羅酒、口中にまろやかさ 三国町の冬場の楽しみ

1996年01月26日

観光

 日本海の荒波が打ち寄せる厳しい冬。新鮮な越前ガニの味がますます深みを出す。特に水ガニはびっしりと身が入り、清冽(れつ)な味覚がのどを滑り落ちる。福井県三国町は昨年十一月から温泉も開湯し、冬場に訪れる楽しみがぐっとアップした。

 京福電鉄芦原湯町駅で東尋坊行きのバスに乗る。海岸線を走る車内から鉛色の空の下に大きな波のうねりと、砂浜と見違える一面に広がる真っ白い泡が目に入る。

 東尋坊の容赦のない自然がつくり出した海と奇岩の雄大な景観。地元の人間でも冬訪れることは少ないが、波と岩が織りなすその迫力を一度は見ておきたい。絶壁に立ちカメラを向けると、あられ混じりの強い風に体ごと海に突き落とされそうになる。

 セイコはすでに漁期が終わったが、越前ガニの身が引き締まり、うまさを増すのは一段と冷え込む一、二月ごろ。カニの産地は多いが、県外にも福井のカニの愛好家が多いのは、捕る場所が水深三〇〇メートル前後と浅いうえ、漁船が沖泊まりをせず日帰りで漁をするからだ。

 宿は三国港近くの民宿に予約し、夕食にカニ料理を注文しておいた。おぜんに出てきたのは、まるごとの水ガニ。足には身がたっぷり入り、汁の甘味も一段と強くなっている。早速冷えた体を温めようと、甲羅でカニみそとミックスさせお酒を飲む。口の中にまろやかな味が広がり、酒が静かに五臓六腑(ろっぷ)に染み渡りホカホカしてくる。

 宿のおかみさん(77)は「私らが子供のときはカニはおやつでした。こんな寒い時期は大人たちは甲羅でお酒を飲んでましたが、今は高価な物になってしまって…」と苦笑する。ズワイはちょっと高いが、水ガニなら冬の東尋坊の景色を楽しみながら味わうには最適だ。

 三国町には、昨年十一月七日に三国温泉観光公社経営による「ゆあぽーと」(三国町宿二丁目)が誕生、ほとんどの旅館、民宿でも天然の内湯が楽しめるようになった。有料の「ゆあぽーと」には日本海に面した大浴場「かもめの湯」「みなとの湯」、展望テラス、ラウンジなどがあり、一日平均千二百人の入場者でにぎわっている。

 東尋坊、越前ガニに温泉が魅力に加わったことで、三国町の観光地としての注目度はこれから高くなりそうだ。


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