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【乗船体験ルポ】越前がに漁に密着 海は戦場50隻火花 「宝石」求め不眠不休

2019年11月12日

ルポ

  「出ようかの」―。11月6日の越前がに漁解禁の1時間半前、福井県越前町漁協の越前がに漁総責任者を務める日比野大樹船長=海昌丸、15トン=が無線で号令をかけると、沖合に並んだ漁船約50隻が一斉にスタートした。「一年で最も気を張る日」(日比野船長)の始まりだ。限られた漁場で、何隻もの船がしのぎを削る越前がに漁。同乗する海昌丸初代船長の藤川満喜さんはこう表現した。「銃弾の飛ばない戦争だよ」

 
 6日午前0時、操業開始。海昌丸は、弧を描きながら左右のリールに巻き付いた計3千メートル以上のロープを伸ばし、袋状の網を作る。1時間余りかけてゆっくり引き、巻き揚げ開始。日比野船長の「はよ網を揚げーま(早く網を揚げろ)」との声に、船内は殺気立つ。
 
 緊張の1回目を揚げると、網からはカニだけでなくさまざまな魚が飛び出し甲板を彩る。しかし、結果は物足りない。藤川さんは「いい時は網を揚げきるまでに分かる」とカニの少なさを嘆いた。漁場を変えると、高値の付く雄のズワイもかかったが、まだまだだ。
 
 脚が多く折れたカニなどは間引かれ、越前がににはタグが付けられる。さらに雄雌、大中小、脚の有無などで細かく分けられる。次の底引き網の準備もしながらの作業で、船上では息つく暇もない。
 
 6日正午ごろまでの間に5回網を入れた。しかし「ここ数年で一番だめ」(日比野船長)。読みと運、この二つが合致して初めて大漁となる。船はいったん帰港し競り分を下ろすと、沖にとんぼ返り。次に港に戻るのは7日午前8時で、海の上ではほぼ不眠不休。闘いは続く。
 
 帰路の甲板で、漁師たちに加わり「漁師鍋」をいただいた。イカ、カレイ、タラ、エビなど、とれたての食材を使ったごちそうが空っぽの胃袋に染みた。約14時間ぶりに陸に上がると少し揺れているように感じ、漁師の大変さも自分の身に染みていた。

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