漁船と連携し品質を判断
田村幸次
トップページ > ニュース > 2020年12月 > 地域の誇り、「極」の越前がに(上) 向笠千恵子の食は福井にあり
新年そうそう、東京・渋谷のデパ地下で「福井」を見つけた。名店街にある洋風デリカデッセンのディーン&デルーカ(以下D&D)でのこと。越前がれいと越のルビーのアクアパッツァ、寒ぶりの炙(あぶ)り・山内かぶらと山うにの鬼おろし添え、上庄里芋と舞茸(まいたけ)の焼きカレーパン、黒龍吟醸豚のロースト・越前あんぽ柿ともろみ味噌(みそ)マスタード、上庄里芋と谷田部ねぎと冬野菜のロースト・へしこバーニャカウダソース添えなどがケースにずらりと並んでいたのだ。わたしはメニュー名を読みながら、それらの生産者の顔やその土地の光景がよみがえり、幸福な気分になった。お年玉をもらったような気がしたのである。
郷土色たっぷりの旬の食材を今風のおしゃれ料理に仕立てているのが心にくい作戦で、100グラムまたは1個単位で買えるのもいい。3日間限定のイベントだったが、このD&Dは都心で多店舗を展開しているから、アピール効果は大きい。このようなテイストで首都圏の人々が福井の食材にご縁を持ってくれるならうれしいし、わたしも福井の食を内外に発信したいとあらためて決心した。ということで、当紙面に再び登場させていただくことになりました。どうぞよろしくお願いいたします。
さて、前述の催事には、福井の冬を代表する食材が使われていない。越前がにである。高価だし、希少だから、高級デリカ店といえども使えないのだろう。だが、福井県民こぞっての自慢品となればこれが随一。秋になるとどっとスタートするかにが目玉のツアーでも、毛がに、たらばがにのコースを抑え、越前がにが堂々の一番人気だし、料金もけっこう立派だ。
越前がにとは、もちろん福井県産のズワイガニ(以下ズワイ)のこと。それも三国港、越前漁港、敦賀港、小浜港で水揚げされたものだけの地域呼称である。ズワイはクモガニ科ズワイガニ属のかにで、朝鮮半島東岸からアジア大陸にいたる海域(日本海)、千葉県以北の太平洋、オホーツク海とベーリング海に棲息するが、日本では島根県以北の日本海側に多い。そのため、鳥取や兵庫では松葉がに、石川は加能がになどと、各地でブランド名を付けて販売している。また、京都の料理屋が愛用する京都府間人(たいざ)港の間人がにのように漁港ブランドまである。
ただし、わたしが福井贔屓(びいき)ということを割り引いても、味、品質、歴史、資源管理などトータルに見て越前がには他のブランドの先を行っている。県外産や外国産ズワイとの差別化用に、黄色のプラスチック製タグ(標識票)装着を2010(平成9)年から始めているのも一例だ。そして、他のブランドがには福井県との違いを出すために白、青、緑などのタグを付けている。
福井はすでに次の手も打っている。15年からはブランドの最高級品のお墨付きである「極(きわみ)」認定制度を設けたのだ。わたしには手の届かない値段(料理屋でいただくと1匹10万円以上らしい)なのでご縁はないのだが、富裕層の方々は気になるようで、極を食べるために冬の福井へ出かけたご夫婦を何組も知っている。認定制度の効果はすこぶる大きいようである。
「極」の基準は重さ1・3キロ以上、甲羅幅14・5センチ以上、爪幅3センチ以上、体にキズなどがないことなど、ミスコン選出以上の厳しい条件だ。まして18年からは、越前がにが国の「地理的表示(GI)保護制度」に登録されたため、「極」審査はますますシビアになって、今冬から茹(ゆ)で上がりが1・5キロ以上という条件が追加された。おかげで合格がには価格も急上昇している。
なおGIとは、地域の風土と伝統的生産法で育まれ、秀逸な味と高品質をもつ農林水産物や加工食品を日本の知的財産として保護する制度。福井県は越前がにを加えて6品目も認定されていて、この連載で以前にご紹介した吉川ナス、山内かぶら、谷田部ねぎ、上庄さといも、若狭小浜小鯛ささ漬もGI仲間である。読者のみなさまも福井のGI認定品を誇りにして、ますます生産者を応援してください。(向笠千恵子=フードジャーナリスト、食文化研究家)