「越前かに」の名付け親、知名度向上に貢献
壁下誠
トップページ > ニュース > 1996年11月 > 越前がにの身でシャリ包む恵方巻き 食料品卸の一乃松(越前市)
大手百貨店「三越」の旗艦店、日本橋本店(東京都)が今年の節分に展開した恵方巻きキャンペーンで、カタログの表紙を飾ったのは料理店経営や食料品卸の一乃松(本社越前市三ツ口町、坂昌勝社長)の商品だ。全国32店の太巻きずしが掲載された同キャンペーン。巻頭で紹介されたのが高級店として知られる「銀座 久兵衛」(東京都)と「たん熊」(京都府)であることからも、一乃松のブランド力の高さがうかがい知れる。
「食と言えば京都、江戸、金沢。同じような商品レベルならバイヤーは老舗や産地で選ぶ。福井の業者が対抗するには圧倒的な商品力しかない」と坂克也常務。たとえば太巻きでは、他店がのりで巻いたオーソドックスなすしを発表したのに対し、一乃松はのりの代わりに越前がにの身でシャリをくるんだ“ぜいたくな”一品。「パッと見ただけで勝っていると分かる」(坂常務)商品開発を重視する。
鯖江市下河端町で料亭「一乃松」を運営する傍ら、主力の焼き鯖ずしや鯖ずしを全国158の百貨店や、羽田、中部国際などの空港、高速道路のサービスエリア(SA)に供給する。1日の出荷量は平均約2千食で、繁忙期には8千食近くになるという。
近年はおせち料理や駅弁の商品ラインアップも拡充。昨年末に発売したおせちは12月上旬に注文受け付けをストップするほどで、売り上げは前年比2倍近く伸びた。
人気の秘密は群を抜く価格競争力だ。他店の高級おせちが2段積みで約5万円などの水準であるのに対し、一乃松は3段積みで3万円。国産素材にこだわり、高品質を維持した上で「お得感」を前面に打ち出す。坂常務は「多少利幅を削ってでも量を取る。味には絶対の自信があるので一度食べてもらえれば再び注文いただける」と戦略を説明する。
昨年9月、越前市内に工場を移転新築し、生産能力は約3倍となった。移転を機に外注していた炊飯を内製化し、米の固さなど品質管理を徹底する。
着々と生産、販売体制を伸ばす一方で自社の現状については「大手百貨店に販路を持つ県外より、むしろ県内での認知度が低い」ともみている。今後は県内での会議用や花見用弁当など、足元の市場拡大を視野に入れる。