競り落とすには度胸が必要
中橋睦男
トップページ > ニュース > 1996年5月 > 本当の「越前がに」とは BAYわかさ、今攸
「越前がに」の漁は五百トンを超えるという二十三年ぶりの好成績を残して三月に終了しました。皆さんは、そのおいしさを楽しまれましたか。
福井県内の漁業者は「越前がに」という名称は福井県沖で捕獲されたカニにのみ使用しようとする人が多いようです。その理由は大量に入荷する県外や国外のカニと区別し、「越前がに」と名が付けば、県内産のカニであること、つまり本当においしいカニであることを消費者に保証しようとする考えからです。
石川県以西の日本海での漁獲量は二千トンですが、オホーツク海での漁獲量はそれを上回るほぼ三千トンで、その多くが生で県内にも入荷し、浜でゆでられています。ですから、県内産か、県外産かは売り手しか分からないのです。一部の店では両者を良心的に区別し、一部の店ではともに「越前がに」となるのです。
味に鋭い漁業者は「県外産のカニは数日間の絶食の旅の間に肉質を落とし、それが味の低下につながっている」と言いますが、私の舌ではとても区別ができません。
県内に入ってくる輸入品の量は分かりませんが、日本の輸入量は生産量の十数倍に当たる七万トンで、その相当量がカニの本場である北陸、山陰地方で消費されているとみられます。アメリカとカナダからは胸と足だけにされ、凍結されていますから県内産とは明確に区別できます。
しかし、一部は姿のまま、しかも生で凍結されたカニもあり、解凍されてしまえば、素人目には区別できないでしょう。さらに、輸入されたカニの中にはオオズワイガニという別の種も含まれています。最近になって、このオオズワイガニが北海道の太平洋でも漁獲されるようになり、県内でも売られるようになりました。
皆さんが食べたカニは本当の「越前がに」でしたか。
今攸(こん・とおし) 北海道生まれ。県水産試験場長。県水産課参事を経て平成2年から同場長。敦賀市平和町。