エビを「海老」と書くのは、腰が曲がってひげが長い姿を老人に見立てたから。その前になぜ「えび」と呼ぶかというと、葡萄(ぶどう)をそう呼んでいてその色に似るから▼もっとしゃれた言い方なら「ワインレッド」となるが、甘エビはもっと赤い。だから標準和名は「ホッコクアカエビ」だ。本県の各漁港で今、たくさん揚がる▼左党ならこんな一句をひねりたいところだろう。「甘海老のヒヤリと酒の舌に溶け 三邑瑠」。殻をむいて刺し身に、頭はみそ汁。下戸も上品な甘みに魅せられる▼情報も味のうちなのでうんちくを少し講じると、甘エビは6歳くらいで雄から雌へ性転換し産卵するようになる。道理で青い粒の卵を抱いた「子持ち」は大きく、一番値が張る▼面白いのは3番目に高い値段の中型を、三国港では「三郎」と呼ぶことだ。それには地域独特の理由があり、三男をそう名付けることが多いからとか。中型はまだ雄だろうから男性名なのだろう▼甘エビ漁は10月いっぱい盛んで、11月初旬には王者・
越前がに漁に替わる。さらに日本海側特有の冬雷が鳴るころ、たっぷり脂の乗った寒ブリが続く▼甘エビ、カニ、ブリ。それぞれをアルファベットでつづった頭文字を並べ誰が呼んだか「北陸のAKB」。あの身近な人気アイドルグループになぞらえた命名は敷居を下げ、本物の美味に触れてもらうにはいい。