福井県越前町の沖合約30キロ(水深約240メートル)の海底に、海上保安庁の記録にも残っていない謎の沈没船があることが、県水産試験場の超音波調査で分かった。沈没船は全長約70メートル、マスト高約16メートルに及び、形状などから近代以降のものとみられる。敦賀海上保安部は「この海域で近年、大きな船が沈んだという事故などの情報は把握していない」としている。
同保安部は「使わなくなった船を『沈船魚礁』として沈めることはある」とするが、その場合は沿岸に沈めるケースが多いという。「30キロも沖に沈めるというのは、あまり聞いたことがない」と話し、県水産課も同様の見解を示している。
沈没船が見つかったのは、越前岬の西南西28・5キロの地点。地元の漁師らが「シンヤマ」と呼ぶ越前がにの好漁場となっている海域だ。海上保安庁の「海洋台帳」では、周囲に起伏のないなだらかな海底となっているが、越前町漁協の漁師たちの間では以前から「魚群探知機に大きなものが映る」といわれてきた。
5年前まで底引き網漁船の船長を務めていた同漁協の小林利幸副組合長は「先代から、そこで網を引っかけたら上がらないぞと教えられてきた」と明かす。
福井県水試の河野展久主任研究員が2014年7月、シンヤマの「好漁場たるゆえんを探ろう」と、超音波調査機器サイドスキャンソナーでシンヤマ2キロ四方の海域を探索。得られたデータを解析して画像化したところ、大きな船が沈んでいることが分かった。
河野主任研究員は「巨大な岩場でもあるのかと思っていたら全くの予想外。最初に画像を見たときは驚いた」と言う。マストが16メートルと高いことに関して「軍船の見張り台か、漁船の魚の群れを探すための物見台かもしれない」とし、「想像の域は出ないが、戦時中に沈められた船の可能性もあるのでは」と話す。
河野主任研究員は、240メートルという水深について「メスのセイコガニが1年間、卵を抱えて集団生活する深さ」だと説く。その上で「もともとセイコがすみつきやすい環境に加え、沈没船が底引き網の“障壁”となってカニ資源を保護する役割を担っているのだろう」と、シンヤマが毎年、カニ漁解禁日に多くの漁船が集まる好漁場となっている理由を分析している。