競り落とすには度胸が必要
中橋睦男
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カニ好きの作家は多い。開高健が越前海岸の定宿で越前がにを豪快に味わった随想は有名だし、立原正秋や田村隆一も至福の時間を過ごした名文を書き残している▼今年が生誕100年の詩人、三好達治も人後に落ちなかったらしい。その“証拠品”が福井県立図書館で開かれている「ふるさと文学コーナー」に展示されている▼本県出身の芥川賞作家、多田裕計が書いた「蟹(かに)と詩人の湊町」である。多田は三好と同時期、三国に疎開し三好が住まう薄暗い土蔵でのエピソードを描写している▼「『酒があったらねえ』と言いながら、カニをむさぼり食った思い出がある。あの詩人も、カニの好きな人であった。カニの殻を花のように撒(ま)きちらして食べた」。三好の一意専心ぶりが目に浮かぶ▼カニ好きは国外にもいる。中国・唐の李白は「月下の独酌」で「蟹螯(かいごう)は即(すなわ)ち金液、糟丘(そうきゅう)は是(こ)れ蓬莱(ほうらい)」と詠んだ。カニのはさみは不老不死薬、酒粕(さけかす)の丘には神が宿る-と▼三好や李白が言うように、カニと酒は相性がいい。上品な甘みの肉汁と濃厚なカニみそには芳醇(ほうじゅん)な酒の香りが合う。まして熱燗(あつかん)なら冬の体も温まる▼カニのシーズン到来。福井自慢の越前がにを存分に賞味したいが、三好の時代と違って今や高嶺(たかね)の花。「ズワイより内子のあるセイコの方がうまいですよ」。県外の知人への講釈は本音半分、言い訳半分である。