長年の経験と技術でカニの居場所探る
中野良一
トップページ > ニュース > 2009年6月 > カニ殻土壌のトマト好評 エコな芦原温泉発信
福井県あわら市の芦原温泉で循環型社会への取り組みが活発化している。旅館から出たカニ殻などの生ごみを堆肥(たいひ)化し、市内の農家が野菜を栽培、旅館で提供する取り組みを行っている。環境に優しい観光都市をあわらの新たな魅力として創造、発信していくことで、誘客につなげていく考えだ。
■サイクル構築も検討
環境問題について考える「あわら市エコ市民会議」は昨年3月、同市の旅館「あわらの宿 八木」と生ごみ減量の協定を結んだ。同会議がリースした処理機1台を同旅館に設置。2011年度は野菜くずを中心に約968キロを機械に投入し堆肥化した。しかし、堆肥化する際の臭いや堆肥の活用法が決まっていないなど課題は多く、現在は同旅館だけの設置にとどまっている。
同会議では、臭いなど技術的な問題を解決した上で、取り組みを広げていくとしている。また、処理機で作った堆肥で野菜を育て旅館の食材として使うサイクルの構築も今後検討していくとしている。
■農家から手ほどき
同市観光協会のエコ推進・会員拡大委員会は、冬場の越前がにシーズンに各旅館から出る大量のカニ殻に注目。有効活用しごみ減量につなげようと昨年末に「あわら蟹(かに)がらプロジェクト」をスタートさせた。同委員会メンバーの旅館女将が呼び掛けたところ15軒の旅館が協力。先進地の坂井市三国町の生産農家の手ほどきを受けながら今年1、2月に回収し乾燥させた後、3月に粉砕し堆肥化した。
カニ殻に含まれる成分には土壌活性や病害虫予防の効果があるとされ、あわら市内の農家が土壌にすき込み野菜を栽培。今季は特に福井特産のミディトマト「越のルビー」栽培に力を入れた。
■女将も協力
同委員会は栽培した越のルビーを「かにからとまと」としてブランド化。贈答用に箱詰めし各旅館がお中元商品として使用した。送り先からの反応は上々で、「次はトマトを求めて芦原温泉に来ます」と話した人もいたという。
プロジェクトには芦原温泉旅館協同組合「女将の会」も協力。カニ殻の粉砕やトマトの苗付け、収穫作業などを手伝った。同委員会の鈴木奈緒子委員長は「女将たちが農作物生産の現場を肌で感じ、理解を深めることはとてもいいこと」と力を込める。旅館のお客さんに食材を安心して提供できることに加え、地元の食材を積極的にPRできるようになるからだ。
プロジェクトでは来季以降、越のルビー以外の野菜栽培や加工商品の開発、各旅館で統一した料理の提供を考えているという。また、旅館宿泊者が生産現場を見学するなどグリーンツーリズムにも取り組んでいくとしている。
同委員会も同会議も循環型社会を誘客に向けたツールとしてとらえているのは同じ。現在、個別に活動する両団体が連携すれば活動の規模は拡大していくはずだ。2014年度の北陸新幹線金沢開業とその後の県内延伸を見据えた首都圏からの誘客には他の温泉地域との差別化は必須。自然とのかかわりが薄い一方で環境への関心が高いとみられる首都圏の人々へアピールしていくには、芦原温泉全体で生むエコ商品やエコタウンは大きな武器になるに違いない。