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地元こそ支えの輪に、越前がに 海とつなげ常連呼び込め、加瀬教授

2012年04月21日

解禁

学校でセイコガニの食べ方を教わる子どもたち。希望の持てる産地へ地元の理解、協力は欠かせない(写真と文は関係ありません) 今年も多くの人たちが越前がにを堪能した。しかし、その将来は決して安心できるものではない。輸入物を使用して低価格で大量の顧客を集めようとした大型ホテルがあった。しかし、山奥の温泉地でも出される冷凍マグロと同じとみられたのか、結局は撤退を余儀なくされたそうだ。

一方、地元の料理旅館、料亭は長く地元で営業している家族的経営で、漁業関係者とも顔見知りの人たちだ。漁業者が兼営している料亭もあれば、仲買人と料理民宿が親せきという例も多い。お互いの事情がわかり合えるので、立場は違っても協力関係を作りやすい。

とはいえ、地元に水揚げされているというだけで高い評価が維持され、高く売れる時代は去ってしまった。まず、顧客層の懐は、年々厳しくなっている。不況が続き、宴会需要などの予算内では越前がにの提供は無理になってきた。そのぶん、年末年始の特別料理という性格が強まっている。

また、リピーターの高齢化も進み、子ども連れの家族や若者は少ない。料理旅館の経営者は「産地同士が競争しているので、料理の優秀さだけではリピーターも取られてしまう」と言う。お歳暮用の贈答品としても越前がには珍重されているが、企業による贈答が減っている分を個人需要でカバーすることは難しい。

カニ料理を産地で食べることは、顧客層も「ぜいたく」と意識している。そのため、産地側がどんなに努力しても、景気の動向や時代風潮によって顧客の増減が左右されやすい。特に昨年の顧客数の落ち込みは、豪雪の影響とならんで、東日本大震災によって高価な消費の自粛ムードが響いたと関係者はみている。

越前がにの産地にとって、協力し苦労して作り上げてきた今の方式を大事にすることは必要だ。しかしそれだけでは厳しくなっていく経営環境に対応できない。これからは、各年齢階層に開かれた多様な集客力を、海とカニのイメージでつなげることだ。

越前がにの料理民宿の中には、夏はダイビングのインストラクター業と海鮮料理、冬は越前がに料理をメーンにしている業者もいる。夏の顧客である若者が、冬には手ごろな価格帯のカニ料理から入って、次第にリピーターになっていくこともある。

本格的な海洋レジャーに隣接して、漁業体験型の学習機会も試みられている。越前がにミュージアムも観光バスのルートとして健在だ。「今度は何が見られるか」という期待に応えられるように、漁獲の様子を示す模型などに斬新な表現がほしい。

高級物の観光地は、ともすれば地元の消費者と無縁になりやすい。直接に海に接することの少ない地元の人たちにも、地元の価値を納得してもらい、ともに支える輪を強めていきたい。

心強いことに料理旅館の経営者には若い後継ぎが多く、勉強会も盛んだ。料理にかかわるアイデアも重要だから、女性たちの活躍も当然に大きい。そうした力がもっと発揮されれば、さらに希望の持てる産地へと発展することが期待される。

加瀬 和俊(かせ・かずとし)1949年10月千葉県生まれ。東京大学経済学部卒、社会科学研究所教授。専門は経済史、水産経済。75~91年、東京水産大学(現東京海洋大学)で漁業経営調査に従事。91年から東京大学社会科学研究所で経済史、水産経済を研究。著書に「沿岸漁業の担い手と後継者」(成山堂書店)「集団就職の時代」(青木書店)「失業と救済の近代史」(吉川弘文館)


現実は厳しい。でも目を背けない

荒波の恐怖とにらみ合い、身を削りながら生計を立てる漁師。親から子へと受け継がれ、その灯を絶やすまい、待っている顧客への供給を滞らせまいと。カニ漁を行う越前町の若手船主、森川貴文さん(32)、小平一博さん(33)、鈴木幸弘さん(33)に聞いた。越前がにの未来は―。

森川 漁はおもっしぇ。自然が相手で海は刻々と変わっていく。経験がモノをいう世界。「名人」から盗める技はいくらでもあるな。おんちゃんらは努力している。こっちも修業やな。

鈴木 僕は親から漁師になれ、と言われたことはない。この町にいると自然と漁師になっていく。けど現実は厳しいよ。油が高騰し経営はきつい。高齢化で乗組員の確保も課題。外国人労働者を雇い始めた仲間がいる。生き残るためには…。

小平 カニだけ捕ればいい時代は終わったんよ。編み目を大きくして小さいカニを逃がしたり、禁漁区域を広げたり。資源管理型の漁を考えている。次の世代にカニを残すことも僕らの役割。

森川 越前がにって都会でいくらで売られてるの? そんなにブランドなんやろうか。認知度や流通量など、松葉ガニなんかと勝負できているんかな。オレらは海に出てカニを捕る。仕事をきっちりするだけ。

小平 先行きはやっぱり不安。不景気は続くし、魚の値段は下がりっぱなし。旅館の客や観光バスも減っている。カニの流通は複雑で、消費者に届くころにはびっくりの高値になっている。町外の人も買い付けできるよう門戸を広げたらどう変わっていくのか。いろんな課題から目を背けず、ブランド力を高めるため何ができるか考えていかないと。


ブランドになりきれてる? わたしの思い

越前がに食べましたか? みんな1年に1度くらい、ぜいたくするでしょう。なぜだか、地元福井の人が地元でカニを食べていない。都市部では高い評価を受けているけれど、もっと身近な部分、カニのおいしさを知る県民こそが、総合的にブランドを高めていく力になっていくと思う。福井のブランドを自分たちが育てるって意識を持ってほしい。魅力を知れば発信したくなるはず。解禁日に旅館がいっぱいになり、お取り寄せが殺到して初めて成功といえるんじゃないかな=越前町小型底曳網組合・米沢康彦組合長(56)


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