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第10回「蟹と水仙の文学コンクール」優秀作品紹介

2009年12月24日

蟹と水仙の文学コンクール

 福井県越前町主催の第10回「蟹(かに)と水仙の文学コンクール」の入賞者が決まった。全国に誇れる同町の魅力「越前がに」と「水仙」を題材に、詩と俳句の2部門で作品を募集。詩部門に587編、俳句部門に5931句が寄せられた。小学生の部から一般の部までの大賞8点、奨励賞17点を紹介する。

選者

 【詩部門】荒川洋治(現代詩作家)、岡崎純(詩人)、川上明日夫(詩人)、藤井則行(詩人)

 【俳句部門】星野麥丘人(鶴主宰)、岩永草渓(築港同人)、加畑霜子(雪解同人)、中川志帆(風同人)、野上山椒子(ホトトギス同人)、吉田透思朗(海程同人)、早川冬果(鶴同人)



大賞

 【小学生の部】

お正月のかに
鳥居 咲希(織田小)

「おいしいか。」
「おいしい。」
お父さんはにっこり笑って
かにのからをむいてくれる
とってもおいしい
かにの味がほっぺにじゅわーとしみこんでくる

おじいちゃんが毎年くれるたくさんのかに
「みんな好きやでようけ入れといたでの。」
かにの入った箱を両手で持って私に笑う
私も笑う
「早く食べよう。」
上を向いてかにをあーんと食べる
「今年もいい年になるな。」
家族みんながにっこり笑う。

 【中学生の部】

私色の水仙と空
高木 菜摘(社中)

水仙って私と似ている
空を向かず下を見てばかり
でも周りにはたくさんの仲間がいる
はげましてくれたり
一緒にがんばってくれる
だから少しずつ
空を見上げようと
毎日努力する
でもね
そう簡単には
空を見上げることはできないんだ
でもあきらめず
見上げようと努力するとね
いつか
見上げられるんだ
きっと雲一つない
キレイな青空が広がっているよ
その努力と
あきらめなかったまっすぐな心

 【高校生の部】

いやしを与えてくれる花
北嶋 梨絵(仁愛女子高)

ふと気づけば
そこには一輪の水仙が咲いていた
白い花を咲かせ すっと咲いている
みためはすごくおとなしく 儚げだ
その花は 私をすごくいやしてくれる
忙しい毎日をすごす私達人間を
そっと見守るかのように
けっして主張することなく
優しくポッと咲いている

なぜ こんなにも心が安らぐのだろうか?

それはきっと水仙という存在が
母に似ているからだろう

無理に私の中には入ってこない
母の優しさ
かげでそっと見守り支えてくれる
母のぬくもり

私にとって水仙とはそんな存在だ

 【一般の部】

花の咲く場所
小泉 和子(千葉県旭市)

白い水仙の咲く場所を
私は知っています
そこにはかつて
それを世話していた祖母の姿があり
今はそれに重なる
年老いた母の姿があるのです
通学路の脇の畑の片隅ですから
その花の咲く場所には時折
はずむようにして通りすぎる赤いランドセルの姿も見受けられます

そう、あの子も
この畑で
おばあちゃんからもらった
摘んだばかりの水仙をもらって学校へと急いだあの子も
ちゃんと私の中にいます
新聞紙にくるまっただけの
なのにその格別の美しさに
早く先生や友達にそれを見せたくて
長い坂道を小走りに歩いたあの子
あの子もそのおばあちゃんも
ちゃんとそこにいるのです

やがて夏が来ると
もう花の痕跡さえもなくなったそこには
ゆらゆらと陽炎がゆれたりして
でもとなりのハウスにはみずみずしい西瓜がなって
ぬけるような青空を仰ぎながら縁側で家族
みんなでそれを食べたりしたものです
そして秋にはどこからともなく転がってきた落葉や
夕焼け空を背景に飛び回る赤とんぼ
冬になれば霜柱が立ち
まだとけきれない枯葉や
越冬できぬ虫たちのその亡骸をとじこめて
新たな春の訪れを
地中に眠る白い花の球根とともにそこで待つのです
こんなたわいもない日々の
時の営みの上
あるいはその脇に咲いてることを
その白い水仙は知っているのでしょうか
ええ、知っていますとも
そのすっきりと整った顔とえも言われぬ芳香は私の愚問にそんな答えをくれます
そうですね、代々つづく畑ですものね
私はバツの悪い微笑みを浮かべて
あの日よりももっと遠くへと想いを馳せ
春の匂いを深く吸い込みます
目の前にはもう
じゃがいもの葉が青々と繁っています
そして今年も新一年生が
真新しいランドセルをゆらして通り過ぎて行きます
私はその後ろ姿に今度はある日の未来へと
想いを馳せ
いつかはこの畑がなくなることもあるのかも知れないと思いながら
それでも白い水仙の咲く場所は
永遠にここにあるのだと
その花を見つめ
その花の咲く場所へとそっと手を当ててみるのです

奨励賞

 【小学生の部】

「きょうは、かにだ」
加藤 真代(糸生小)

テーブルのうえに
まっかなかにが6ぴき。
おにいちゃんとわたしがきて
「わーい。かにだ、かにだ。」
パパがきて、
「おーっ。きょうは、おさけにしようかな。」
ママがきて、
「まあ、おおきなかにだね。」
おじいちゃんがきて、
「まよちゃん、いっぱいたべるんだよ。」
おばあちゃんが、
「かにさん、ごめんね、いただきます。」
きょうは、パパもそろって、
みんなでたのしいゆうごはん。

季節はずれの水仙と左手
小田 将広(兵庫県高木小)

小学校最後の体育会が
間近にせまっていた
組体操の練習中
バランスをくずして
友だち肩から
落ちた
左手のうでの骨が
折れたみたいだ
はれあがって
どんどん
青くなるうで
不安そうに
どんどん
青くなる友だちの顔
うでの痛みをこらえながら
ぼくは
ただ
青くなるそれらを
見つめていた

病院から帰ると
友だちが家の前に立っていた
「庭に咲いていた……」
それだけ言って
季節はずれの水仙をにぎった
左手をつきだした
右手で受け取った水仙から
友だちの手のあたたかさと
心の痛みが
伝わった
「君は悪くないから」
水仙をにぎっていた
友だちの左手を
ぼくは
しっかり
にぎりかえした

 【中学生の部】

ほらまたひとつ 大きな波が
武田 楓(宮崎中)

あなたに近づく そのためだけに
そろりそろりと よこ歩き
近づきすぎると のぼせてしまい
身体が紅く 染まっちゃう

あなたはいつも ふうわりふわり
絶えずこの世を 流れてる
もしもわたしが 泳げたのなら
この殻を脱ぎ 追いかけたい

あなたがいつも 大好きだけど
たまにケンカも してしまう
そんなときでも わたしはいつも
あなたにはさみを 向けられない

恋のリズムは いつも不規則
荒波みたいに やってくる


心の香り
桜井 ひなの(社中)

ふと香る
あの
なつかしい香り
この季節が
やってきた

ふと香る
この
なつかしい香り
そして
優しいような
あたたかいような
不思議な香りだ

荒れた日本海と
対するように
ただ静かに
ひっそりと
だけど
強く、たくましく
荒れた海を
見おろすようにして
この香りを
みんなに届けている

私を呼ぶ声がした
もう行かなくては
そういって
たち上がった
私の手の中には
私の”心の香り”の
水仙が
一輪


 【高校生の部】


万月 周子(仁愛女子高)

小さな女の子を
しわしわの手で
おんぶをしながら
水仙の咲くこの道を
ゆっくりと歩く

優しいほほえみで
水仙を見つめながら
鼻歌を口づさむあなた

ゆったりとした
メロディーを聞きながら
通り過ぎる風景を
じっと見つめる女の子

なつかしい記憶が
頭の中でよみがえる
あなたと二人で
何度も通ったこの道は
今でも あのころのまま

あなたもどこかで
見ていますか?

水仙…
今年も立派に 咲いています


蟹食いて、思う
金谷 美佳(仁愛女子高)

 冬といえば? コンビニには中華まんとおでんが仲良く並んで私を誘惑するが、やっぱり私にとって冬といえば蟹だ。
 今日はごちそうよ、とかそんな前触れは一切なく、食卓にどどんと蟹が並ぶ。私の家は職業上、海産物が毎日食卓に並ぶ。だがやはり蟹は格別。朱色の殻に身を包んだ冬の風物詩を五感全てをフル活動して味わう。
 殻の弾ける音、引きしまったつやつやとした身、ほんのりと漂う磯の香り、ぷりぷりとした歯ごたえ。食後の感想は、「幸せ」の一言に尽きる。
 だが、こんな冬も今年で終わりなのだろう。
 私は高校を卒業したら、県外へと進学するつもりでいる。一人暮らし。
 冬になれば、家族は蟹を送ってくれるかもしれない。ごろごろと朱色の風物詩が宅急便で送られてくるかもしれない。でも違う。
 蟹の味は同じかもしれないが、供に蟹を楽しむ家族が、いない。小気味のいい音は、かえって私の心に寂しく響く。ひとりぼっち。
 冬の寒さのせいで、余計に孤独を感じる。
 蟹から漂う磯の香りが、私の鼻の奥でつんと香るのだろう。ぽろりぽろりと、おいしさと一緒に家族の暖かさがにじむのだろう。
 そう思うと、今年、この家で食べる蟹は、ちょっと寂しい。


 【一般の部】

命を生きる
林 都紀恵(鯖江市)

あの日
琵琶湖は雨にけぶっていた
センターラインを越えて
正面衝突してきた若者の車

目を閉じて
救急車に固定された夫

十二胸椎圧迫骨折
脊椎損傷
初めて知った怪我の名前

命はとりとめても
寝たきりになるでしょう

手術
リハビリ
夫の上を 家族の上を
流れて行った百八十日

いま
車椅子の夫は
越前ガニを食べている
黄色いタグのついた
本物の越前ガニ

自分の手で
自分の口へ

せいこ蟹のみそをすすり
ズワイ蟹のプリプリとした身をほうばり

刺身
焼き蟹
グラタン
海の豊穣そのものの
白い豊かな肉を口いっぱいに
ほうばって
むしゃぶりついて食べている
蟹は
己のからだのすみずみまで
深い海の滋味をとりこみ
真赤に茹であがって
夫の前にある

さあ 食べるんだ
わたしを食べて生きるんだ
わたしの命を糧にして

蟹は夫に語りかける

蟹の命に生かされて
夫はいま
ひたすら蟹を食べている


水仙たちの金色のささめき
漆畑 結音(静岡県静岡市)

廻る春を押し込むと
聞こえてくるのは
水仙たちの金色のささめきーー

一年が経ち
三年が経ち
五年、十年と経ってからの
イギリスの友との再会を経て
今度会える日の輪郭が描けないまま
友の家を後にして立ち寄った
三月のグラスミア湖

湖畔には雪解けの土を押しのけ
宙に飛翔しようとする茎や葉に支えられ
春をもたげる黄色い水仙たちの
一斉に咲きそろった金色の言葉

足元の水仙たちが
詩人の言葉をささやきかけていたのは
ワーズワースの詩行「ダフォディル」が
収まったポストカードを
鞄に押し込んでいたからか
Dances with the Daffodils――

もしくはあの日
つま先にさえ
曇り空ばかりが繋がっていたのに
街路樹の隙間や
通行人の話し声の届かない裏庭の
土のあるいたる所で
水仙たちの春夏を呼ぶ声が
くぐもっていたからだろうか

日本に戻ってから
春を押し込み
自分を押し込み
かな文字や漢字や
カタカナを押し込み
ばら撒かれた文字に溢れたまま
書き手を失ってしまった
何冊ものノートに

再び廻る春を押し込むと
聞えてくるのは
水仙たちの金色のささめきーー

幾重にも
ゆれながら
あの北国での春の日が
水仙たちがーー
戦ぎだしては

花言葉「自己愛」のように
突き立った現実を
淡雪へと溶かしている

 引用…William Wordsworth「Daffodils(水仙)」より


越前の友
槇野 博(大阪府吹田市)

水仙のはなことばを
ぼくはしらない
はなのにおいも
ぼくはしらない
かいがんのちかくに
じせいすると
ひきしおの
かわいたかぜにも
くちないと

へたくそないきかたを しがみついて
おいやるように ときがすぎ
ふゆくもりの
そらとうみの ふうけいのなか
こうかいという こころのさむさを
すなにうずめて たちつくす
越前にくらすともは げんきだろうか

みつめるうつつの はるかさき
ろくべんのはなびらが きしべにひらく
ろくどうの たねあかしをするように
あらなみのうねまを あしゅらがわらって
とおりすぎる

いくつのときだっただろう
そくそくとして ほほえみをかえすと
かなたにかすむ そのひとは
りょうてをふって せのびして

――らいねんも きてくださいね
しおかぜがせなかを さすっている
ぼくがなみだに ならないように と
――もらってください よかったら
わたされた 水仙のはなたばに
きおくのつゆを とかしながら
うなずいている
うなずきたくて

水仙のはなことばを
そのにおいを
ぼくはしらない
越前にくらすともは
いまも げんきだろうか



俳 句

大賞

 【小学生の部】

水仙をとっておこうよ押花で
蜂須賀 紀行(三重・玉滝小)

 【中学生の部】
水仙の香る越前みなと町
金矢 和起(織田中)

 【高校生の部】
水仙を風ごと切れば匂いけり
谷川 史弥(長崎工業高)

 【一般の部】
蟹漁船待ちて糴場の朝焚火
宇佐美 英夫(滋賀県野洲市)


奨励賞

 【小学生の部】
かに解禁家族の顔がほころぶ日
冨田 明日香(織田小)

蟹くえば幸せの音ひびく夜
田中 亮蔵(織田小)

 【中学生の部】
水仙の花の数だけ笑顔あり
粟崎 佳帆(朝日中)

水仙を早くみたくて海にくる
中西 由季絵(武生二中)

 【高校生の部】
風運ぶ水仙の香の宅配便
南 千尋(仁愛女子高)

水仙の花のじゅうたん咲きほこる
黒田 めぐみ(仁愛女子高)

 【一般の部】
波音のなければ淋し水仙花
山内 てるこ(福井市)

水仙を墨一色で描きけり
水谷あづさ(奈良県奈良市)


佳作

 【詩】▽小学生の部 中西梨絵(織田小)幸山円(同)冨田侑希(同)森崎晃輔(同)笠原さつき(四ケ浦小)▽中学生の部 斎藤ゆきな(社中)岡崎祥(春江中)松尾朱莉(三重・保々中)多田まどか(社中)梅津奏子(秋田・飯島中)▽高校生の部 薛沙耶伽(福岡・雙葉高)本田しおん(東京・藤村女子高)徳力ゆか(仁愛女子高)岡田尚子(同)水嶋愛(丹生高)▽一般の部 木塚康成(広島県呉市)竜田道子(勝山市)塩見史子(京都府福知山市)上田啓子(埼玉県ふじみ野市)関剛(京都府長岡京市)

 【俳句】▽小学生の部 山口梨絵(国高小)山田拓斗(城崎小)正木妃乃(同)上野大輝(織田小)道前美月(城崎小)▽中学生の部 田中康平(織田中)山口太郎(朝日中)渡邉栄太(同)安井えりか(同)古川結衣(宮崎中)▽高校生の部 岡崎尚未(長崎工業高)齊藤早雪(仁愛女子高)有川楓(長崎工業高)安元美波(同)長谷川恵理(北陸高)▽一般の部 今西起久(奈良県大和郡山市)松本和枝(福井市)鷲田早紀(神奈川県小田原市)小山怜子(兵庫県神戸市)植松敏子(和歌山県新宮市)

詩・講評

選者代表 川上 明日夫
選者代表 荒川 洋治

空と水仙の対話 きれい

 小学生の部の大賞作の鳥居咲希さん「お正月のかに」は、「おいしいか」の向こう側におじいちゃんの笑い、お父さんの笑い、家族みんなの笑いが満ちあふれていました。<かにの味がほっぺにじゅわーとしみこんで/くる>笑いもじゅわーとしみこんできました。<今年もいい年になるな>、がいいですね。
 中学生の部大賞の高木菜摘さんの「私色の水仙と空」は、私自身の強さや弱さを通しての空と水仙との対話がとてもきれいでした。空に自分を発見、水仙に自分を発見、私色という心に作品の独自在があり、とても新鮮でした。発見と感動のそれです。
 高校生の部大賞の北嶋梨絵さん「いやしを与えてくれる花」は、水仙の花の静かなたたずまいに母の生き方をみた一編。優しさは強く、広く、豊かで凛(りん)として温かいものであると。その香りとともに愛するものへの限りない感謝がメッセージとしてありました。

  ×  ×  ×

 一般の部の大賞には、小泉和子さんの「花の咲く場所」が選ばれた。長い詩だが自然な語りに魅了された。時は流れても、水仙の花が咲く「場所」に変わりはない。季節の情景のなかを通りながら少しずつ作者の思いがいろづいていく。さわやかな心の動きがある。いつまでも、この詩を見つめていたい。そんな気持ちになった。奨励賞、佳作にも印象に残る作品があった。

俳句・講評

選者代表 星野 麥丘人
強く伝わる季節の感覚

 小学生蜂須賀君の作は、自分の体験を通して詠(よ)みあげたところに、少年らしい気持ちがよく表現されています。
 中学生金矢君の作は、越前水仙を詠んで一見常識的な把握にみえるのですが、感覚のなかに作者の姿勢がうかがえて賛成です。
 高校生谷川君の作は、「風ごと切れば」の中七が一句の中心です。実感を通しての季節の感覚が強く伝わってくる鋭い句といえましょう。
 一般の部の大賞は宇佐美英夫氏の作です。
 蟹の句は、「沢蟹」「川蟹」などで詠むと夏の句になりますので、冬の蟹の季語としては、「越前蟹」「ずわい蟹」「せいこ蟹」「こうばく蟹」などで詠んでほしいです。俳句が季節の詩である限り季語の存在も大切にしなければなりません。
 ところでこの大賞作品は蟹を季語とせずに詠んでいます。当然、こういう詠み方もあっていいわけで、ここに気がつけば詠める範囲が広がるはずです。その一例としてもこの作を推したいと思います。


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