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令和5年度 越前 蟹と水仙の文学コンクール 優秀作紙上紹介

2024年02月10日

蟹と水仙の文学コンクール

 令和5年度「越前 蟹(かに)と水仙の文学コンクール」(越前町主催、福井新聞社共催)の入賞者が決まった。全国に誇る同町の魅力「越前がに」「越前水仙」「越前海岸」を題材にした詩と俳句を募集。詩は題材に「きずな」をテーマに加えた。詩部門に341編、俳句部門に3540句が寄せられ、両部門で大賞、奨励賞、佳作などが選ばれた。小学生の部から一般の部までの大賞7点、奨励賞16点を紹介する。


大賞
【小学生の部】
「なつかしい匂い」 
増田 ゆま(吉川6年)

「ただいま」
手袋のまま玄関を開けると
きれいな匂いがする
冬だけの香り
棚の上の花瓶には
雪みたいな色の水仙
毎年おばあちゃんが飾る
「きれいだね いい匂いがするでしょ」
毎年のお決まりの台詞

そういえば
同じような言葉を聞いた
「越前の水仙は 今年もいい香りでしょうね」
おばあちゃんのお姉さんの言葉
仙台からの電話
前に、福井から届いた水仙は
部屋をなつかしい匂いでいっぱいにしたって
何度も何度もくり返す

手袋をぬいだ冷たい指で
そっと水仙をなでてみた
りんっと小さい鈴が鳴る
軽やかな甘い匂いが辺りに広がる
「おかえり 寒かったやろ」
部屋の奥からおじいちゃんの声がした

この匂いが
やさしい匂いが
私にとっても
なつかしい匂いになるだろう
ずっとずっと大切にしたい
故郷の匂いになるだろう

【中学生の部】
「負けないカニ」
冨山 琥太郎(朝日1年)

今年、初めて、こむらがえりを経験した
左足のふくらはぎが痛くて痛くて歩けない
カニの真似をして歩いてみた
ゆっくりゆっくり横歩き
あれあまり痛くない
でも走ってすぐには行きたい所に行けないや
そう思って、また座った

僕はひ弱なカニ
荒波にあっさり負けてノックアウト
潮にあっという間に流されて、ふうらふら

強いカニ
越前海岸の激しい波しぶきにも微動だにせず
強い潮の流れの中で、ぶれずに凛と立つ
そして行きたい所に向かって突き進んでいく
ゆっくりだけど少しずつ
押し返されても逃げずに立ち向かい
決して諦めずに
自分を奮い立たせ また立ち上がるんだ

僕はなりたい
そんな、負けないカニに
そうだ、僕はなるんだ
さあ、もう一度立ち上がろう
何度でも立ち上がろう
そして、果てしない、広くて大きな海へ
勇気を持ってふみ出すんだ
少しずつでも、ゆっくりでも進め進め
自分の力で、自分の行きたい所へ向かって

【一般の部】
「ただいま」
感王寺 美智子(福岡県)

兄ちゃんは
冬になると帰ってくる
川沿いに桜咲き誇る春も
みんなで泳ぐ楽しい夏も
色鮮やかに岬が染まる秋も
帰っては来ないのに
わざわざ凍れる寒い冬になると
帰ってくる

「あー、腹減った!」
ただいま、も言わないで
玄関開けてコート脱ぎ捨て
座敷の畳にゴロンと寝転ぶ
かあさんは台所で
振り向く暇もなく夕飯の支度
「お風呂、沸いてるから入りなさい」
まるで兄ちゃんがまだ家にいて
部活から帰って来た頃と同じだ
バタン、ガラガラ、ドサッ!
父さんが勝手口から
箱いっぱいの蟹を抱えて帰って来た
「ほら、手伝って」
それを合図に私は
幼い弟をコタツの中から引きずり出す
奥の部屋から使っていない座卓を
運んで来て座敷の座卓にくっつける
蟹のステージ設営、完了!

ぐつぐつ ぐつぐつ
おかえり おかえり
ぐつぐつ ぐつぐつ
おかえり おかえり
鍋の中で蟹が呟き出す
父と母と弟と私は
ソワソワ座って待っている
兄ちゃんも風呂から
ホヤホヤ茹で上がって出て来た
そしてやっと言った
「ただいま」

奨励賞
【小学生の部】
「すいせんたちはこの場所で」
月田 百香(朝日6年)

ざぶーん ざぶーん 潮の香りがほんのり
波の音だけでも 凍えちゃうよ
でも やっとこの季節が来た!
たくさん たくさん咲き始めるすいせんたち
すいせんたちが住んでいる崖には
きょうも強い風がふく
びゅーん びゅーん 風がふく
「みんな、もっと集まって!」
こんな声が聞こえてくる

おや? すいせんたちを見ていると
まるでお星さまみたいだね
たくさん たくさん たくさん
まるで天の川みたいだね
風がそよそよ すいせんたちはゆらゆら
まるで流れ星みたいだね

崖に住んでいるすいせんたちは
キラキラ キラキラ かがやいて
それは大事な宝物
みんなで支えあっている
それは大事な宝物

すいせんたちはこの場所で
何度も、何度も、花を咲かせる
「来年もぜったい見にこようね」
「みんなでいっしょに見にこようね」
すいせんに会いにくる人たちは
みんな「太陽」みたいにニコニコで
みんなのニコニコを見るために
すいせんたちはこの場所で
何度も、何度も花を咲かせる

 「おじいちゃんがかにをむく」
増田 航志郎(吉川3年)

おじいちゃんがかにをむく
一番さいしょ かならずぼくに
「たべるか」って言ってくれる
ぼくはほしいと言う
おさらにたんまり入れてくれる

おじいちゃんがかにをむく
おさらにたんまりかにを入れて
みそも入れて
その次 おばあちゃんに
「いつものやつ」ってわたす

おじいちゃんがかにをむく
かに足の先を持って
大きな口にかにを入れる
口の先をとんがらせて
しゅうっ しゅうっとひっぱって
そして わらう

おじいちゃんがかにをむく
「年に一どの親こうこう」
そうわらって お母さんが
はまに毎年買いに行く
えちぜんがに
とくべつな味がする
あいじょういっぱいのあまい味
また来年も さ来年も
ずっといっしょに食べたいな

【中学生の部】
「冬の食卓」 
川崎 麻尋(越前3年)

テーブルをうめつくすほどに
おかれたカニは
冬の訪れを主張する
兄、姉、祖母、父母
そこに私
みんなでカニを頬張る
兄は白米の上に山盛りのカニをのせて
「カニ丼」
の完成
「美味(うま)っ」
毎年変わらない光景
毎年変わらない兄の「美味(うま)っ」

テーブルをうめつくすほどだったカニは
今年はさみしさを感じる量になった
食卓を囲むのは
姉、祖母、父母
そして私
空いた席と少なめのカニ
「美味(うま)っ」
の声は聞こえない

ピロリーン
携帯の画面にうつった
お皿いっぱいのカニ
そして
「美味(うま)っ」
の文字
都会に行った兄からの一言

毎年変わらない
「美味(うま)っ」
の声が聞こえた気がした

遅れて届いた
「ありがとう」
いつもと違う兄がいた

 「すいせんの気持ち」
青山 怜史(朝日1年)

ぼくは今
暗い土の中で
しっかりと根を張って
大きくなるために
力をためている

みんなは分かれるときに
「きっと、また会えるよ」
と言っていた

ぼくは思う
「本当にまた会えるかな」

土の中ではいつも一人ぼっち
さびしくて不安な気持ちでいっぱいになる
「早くみんなに会いたいな」

高いところから見わたせば
きっとみんなを見つけられる

だからせっせと背を伸ばす

蕾が感じる風が冷たくなってきた
「もうそろそろかな」

目を開けると
たくさんの仲間たちが待っていた
「みんなそばにいたんだね」

ぼくは今
またみんなと風を感じて
潮の音を聴いている

【高校生の部】
「祖父」
小林 杏香
(札幌開成中等5年)

僕の祖父は
穏やかで、口数が少ない
新年最初に聞いた祖父の声は
みんなでおせちを食べるときの小さな
「いただきます」
祖父は毎年一口目に蟹を食べる
そしてほんの少し口角が上がる
そんな祖父は少し可愛い
「好きだよね、蟹」

僕の祖父は
穏やかで、口数が少ない
そう思っていた
「漁師だったからね」
まだ寒く暗い夜と朝の間
冷たい水飛沫を受けた身体を
冷たい風が更に冷やしていく
太く重い網を投げては引いての繰り返し
やがて朝が近づいてきて
太陽が海の向こうから顔を出す
蟹たちも優しく強い光に照らされて
「それがまた綺麗なんだよ」
珍しく饒舌で小さく笑う祖父は
とてもかっこよかった

僕は祖父の
穏やかな眼差しの奥にある
強くて逞しい蟹漁師としての魂を見た
一口蟹を食べてみると
それは甘くて美味しかったけど
祖父にはどんな味に感じるのか
少しだけ気になった

 「ドレス」
吉田 茉央
(富山県星槎国際2年)

水仙が真白のドレスを纏えば
寒空が目を覚まして
やさしい香りが鼻をくすぐる

息が白くなっても 湯は沸かせない
心もマイナスが続く予報だけれど
あなたは数ケ月前の暖かさのまま

雪吹雪が降れば ドレスも踊る
灯台の光に照らされて
はじめて あなたの影が見えた

あなたが栞を抜きとって
季節の頁がめくられた
新章が私たちを待っている

水仙はクローゼットで眠っている
教室とリボンにさよならしても
また逢えるでしょう 水仙とあなたには

【一般の部】
「会える」
松田 十泊(京都府)

「いつもおるな」と青年がいう。
防波堤に座って、日がな一日沖を見ているおばあさん。

さっき横から声をかけた。
「何か見えますか」
「いつもな」…ぼそりと聞こえただけ。

「漁に出たまま旦那は帰ってこなかった。それからや」と青年。「あの
ばあさん、この村から出たことないんや」とも。

おばあさんの目は、水平線のむこう…。
いつも何を見ているのだろう。何が見えるのだろう。
わたしには水か空かわからない。

先ほど、高台の公園で越前水仙にいやされた。
淡い黄色の花 一面に
ただよう香り
薄日さし 無風 無音
のどか…

歩いているうちにチラッと、閃光が走った気がした。おもえば不思議な
ことだった。

そしておばあさんに会ったのだ。
そういえば、その横顔、わたしの、幼い思いの女の子のようだったか。
それで無意識に声をかけたのだろうか。

なら、おばあさんがいつも見ているのは、若くしてなくした旦那のまぼ
ろしなのか。
わたしがおばあさんに、幼女の面影をふいに感じたのはなぜなのか。

気だ、水仙の気がただよっている
気が、幻覚をうながす
会える

 「兄との絆」
織田 香寿子(越前町)

夢というものは
果てしない
終点のある夢は
夢ではない

二月に兄が逝った
幼い頃いつも一緒だった
三歳違いの兄
兄がいなくなり
微塵(みじん)ひとつ浮いていない
片田舎に住んでいながら
空が暗く
押し潰される日び
春が過ぎ夏が立ち去り
秋になっても
わたしは虚ろのままだった

兄からの贈物だとおもう
夢を見た
潮騒のなかに
兄が佇んでいた
ああ 越前海岸
手招く兄
山肌に群生した水仙が
風に吹かれた粉雪と
乱舞していた
ほんに美しい

美しい自然
清らかな空気のなかに
心身放散して
生きてゆける
人生の旅を暗示する
兄との絆の
夢を見たのだ

身を切る冬の越前海岸
潮吹き岩に
吹き上がる潮が
わたしの心を押し上げた


詩・講評 情景豊か きずな描写

選者代表 川上 明日夫
小学生の部大賞の増田ゆまさん「なつかしい匂い」。水仙をなでると「りんっと小さい鈴が鳴る」は、そこから聞こえてくる「寒かったやろ」のおじいちゃんのぬくもりのある声。私の心に響いてやまない香りの音。
中学生の部大賞の冨山琥太郎さん「負けないカニ」は、私もまねしてかに歩き、がとてもユニークでした。信じる道を自分を奮い立たせて「少しずつでも、ゆっくりでも 進め進め」に未来への希望の力が輝いていました。
高校生の部大賞作品は該当がなく、準ずるものとして今回は奨励賞に、小林杏香さん「祖父」と、吉田茉央さん「ドレス」の2作品を推しました。祖父の姿に見るカニ漁師の無口な生き方の地味。水仙は人を香らせ心をも香らせる花。対照的な2編を推しました。
◇◇◇

選者代表 荒川 洋治
一般部門の大賞には、感王寺美智子さんの「ただいま」が選ばれた。郷里に帰って来た兄。迎える家族。カニを囲む、にぎやかな食卓のようすをリズミカルに表情豊かに描く作品だ。風呂から上がって、やっと「ただいま」と言うラストに魅せられた。あたたかみのある、明るい情景が目に浮かぶ。「きずな」という、今回のテーマにふさわしい秀作だ。他にも、心にのこる作品がいっぱいあった。


■俳句
大賞
【小学生の部】

「なみの花海からでてくるシャボン玉」
    田中 志朋(織田2年)

【中学生の部】
「かにの町今日も飛び交う競りの声」
    伊部 泰雅(織田2年)

【高校生の部】

「水仙は悲しいときに泣ける花」
    井上 颯太(丹生3年)

【一般の部】

「海荒るる程濃く匂ふ野水仙」
    藤田 泊陽(千葉県)

奨励賞
【小学生の部】

「かにのつめハートとピースあふれてる」
    間所 千葵(宮崎6年)

「水仙は海のまわりの白い星」
 木村 心春(朝日5年)

【中学生の部】
「冬きたる今海にでる大勝負」
  坂口 雄星(越前1年)

「黒い粒立派な蟹がもつ勲章」
佐々木 敦也(織田2年)

【高校生の部】
「かにみそをかけたジャンケンチョキで勝つ」
山内 諒人(福井高専2年)

「蟹をむく父の横顔若返る」
吉田 恵都(丹生3年)

【一般の部】
「海鳴りは太古の木霊水仙花」
池田 洋子(奈良県)

「わだつみの化身の形(なり)に波の花」
 津田 道代(坂井市)


俳句・講評 「季題」の魅力存分に
選者代表 坊城 俊樹
今回も多彩な俳句が寄せられ、審査は素晴らしい句との出合いがあった。一般の部の大賞「海荒るる程濃く匂ふ野水仙」は、日本海の壮大な景色とその手前に生きる水仙の凜(りん)とした心情のようなものさえ感じられる作であった。水仙はその地の生命となるためにただ品良く匂うものばかりではない。
小学生の部の「なみの花海からでてくるシャボン玉」。この句を見たとたんその新鮮な視点に思わず笑ってしまった。あの白い泡の固まりは確かにシャボン玉だ。それが荒々しい北風にあおられてお風呂ならぬ冷たい海から溢(あふ)れ出る。
中学生の部の「かにの町今日も飛び交う競りの声」は、越前町ならではの光景を見事に写生した句。競り場では早朝から競りの声に溢れている。それは冬場の市場のものすごい熱気に包まれているのだろう。
高校生の部の「水仙は悲しいときに泣ける花」。この句は女の子の句だろうか。でも男子のものでもすてきだ。誰しもが持っている水仙という「季題」の魅力は、可憐(かれん)でありながら凜とした美しさも持つ。その怜悧(れいり)さがまた悲しさを誘うのである。

佳作
【詩】▽小学生の部 原美乃(朝日6年)納谷悠聖(四ケ浦3年)松井楓那(同2年)▽中学生の部 森川亜莉碧(越前1年)角木実樹(同3年)高野仁瑚(朝日2年)▽一般の部 大江豊(愛知県)戸田和樹(京都府)松下和雄(大阪府)
【俳句】▽小学生の部 福嶋芹那(宮崎5年)駒野柚妃(織田3年)鈴木優太(朝日1年)▽中学生の部 北村由輝(中央3年)嶋田真央(織田1年)牧野佑香(朝日3年)▽高校生の部 齋藤光起(岐阜県大垣北3年)中谷涼乃(丹生1年)小松亜花莉(同)▽一般の部 猪狩鳳保(神奈川県)松村敏隆(越前市)北村美和(鯖江市)

越前町商工会長賞
【俳句】▽小学生の部 齋藤史明(岐阜県大垣東5)▽中学生の部 畑和花(越前2年)▽高校生の部 伊藤さつき(福井農林1年)

県農協組合長賞
【詩】▽小学生の部 堀陽貴(四ケ浦3年)▽中学生の部 馬谷心(朝日2年)

越前町漁協組合長賞
【詩】▽一般の部 渡邊小夜子(鯖江市)
【俳句】▽一般の部 東野了(滋賀県)

越前町観光連盟会長賞
【詩】▽一般の部 山越史也(越前市)
【俳句】▽一般の部 佐藤実(山形県)

選者
【詩部門】荒川洋治(現代詩作家)、川上明日夫(詩人)、今村秀子(詩人)、張籠二三枝(文学研究家)
【俳句部門】坊城俊樹(俳誌「花鳥」主宰)、和田てる子(「雪解」同人)、村田浩(俳人協会幹事)、中内亮玄(俳人)

表彰式は、2月23日(金・祝)午後1時30分から越前町生涯学習センター・カメリアホールで行われます。


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