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開高健の没後10年記念し回顧展 神奈川文学館、書斎で戦場で渓流で‥

1999年04月20日

開高健

 福井県にゆかりの深い芥川賞作家、故開高健氏の没後十年を記念した「開高健展」が横浜市の県立神奈川近代文学館で開かれている。直筆原稿や色紙、生前愛用した釣り具、写真パネルなど、北海道から九州までファンらが所蔵する約四百六十点を一堂に集めた。作家の祖父母と実父は本県出身とあって、福井からも出展されている。

 同展は今月十日にオープンセレモニーが開かれ、夫人で詩人の牧羊子さんらが「幅広い生涯の活躍を回顧してもらえたら」とあいさつ。五月十六日までの期間中に一万人の入館者を見込んでいる。

 同文学館の特別展として準備に一年かけた。出展品は大江健三郎氏や小松左京氏ら作家仲間や、全国各地の開高ファン、美術館などから借りた。書籍や雑誌百六十冊余り、写真百七十五点のほか、最後の小説となった「珠玉」の自筆原稿や書簡など。越前町と福井市で五年前に開かれた「邂逅(かいこう)展」の出品数を上回る充実した回顧展となった。

 資料展示は「焼け跡・闇市(やみいち)」から「ベトナム時代」、円熟の晩年までの四部に加え、「釣り人、世界を行く」「ダンディズム」の六部構成。自筆原稿では「パニック」や「青い月曜日」「白いページ」など時代による字体の変わりようが分かり、九州から駆けつけた熱烈ファンの一人は「生原稿の小説を読んでみたい」と話した。故井伏鱒二氏が開高に授けた釣りの秘伝書や、故司馬遼太郎氏が何度も手を入れた弔辞、書簡類も三十点ほど出品された。

 ほかの作家に比べ写真が多く残っているのが特徴で、芥川賞受賞のころのやせて精かんな顔つきや、ベトナムでベトコンに襲撃され死を覚悟した軍服姿、キングサーモンを釣り上げたにっこり顔など、説明パネルが付いた写真が会場いっぱいに並んでいる。

 作家が生前に愛用した帽子や登山靴、パイプ、釣り用のリールなども各コーナーに配され、「丹念に見ると丸一日はかかる」(同文学館)充実ぶり。作家がよく訪れた越前町の旅館主も色紙や、柳原良平氏の切り絵など五点を出展している。

 同展開催中に文学講座も開かれる。四月二十四日午後一時から作家の黒井千次氏と増田みず子さんの対談、五月一日は作家、加賀乙彦氏と評論家、川村湊氏の講演が予定されている。

 同展は五月十六日までの午前九時半―午後五時。月曜日と四月三十日、五月六日は休館。入館料は大人六百円、学生三百円。図録は九百円。問い合わせは電話045(622)6666。


 開高 健(かいこう・たけし)一九三〇年大阪生まれ。だが、ルーツは”福井県人”。祖父母は丸岡町出身で、娘に坂井町生まれの養子を迎え、生まれたのが開高健。大阪市大卒、寿屋(現サントリー)でトリス広告の名コピーをつくり、PR雑誌洋酒天国の初代編集発行人。五七年に小説「パニック」で文壇デビュー、翌年「裸の王様」で芥川賞を受賞した。

 六四、五年にはベトナム戦争を取材。世界釣り紀行「フィッシュ・オン」「オーパ!」など多数のルポルタージュを書いた。小説ではベトナム戦争を基にした「夏の闇(やみ)」や「輝ける闇」、「玉、砕ける」(川端康成文学賞)などを発表。食のエッセーも多い。長良川河口堰(せき)に反対する会の会長を務めたり、モンゴルに出かけチンギス・ハーンの墓探しを提唱するなど、多種多様な分野で活躍した。八九年暮れ五十八歳で、食道がんのため死去した。


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