「越前がには日本で一番おいしいカニ」
田村幸一郎
トップページ > ニュース > 2011年12月 > 蟹と水仙の文学コンクール 詩、俳句で入賞決まる
福井県越前町主催、福井新聞社共催の第11回「蟹(かに)と水仙の文学コンクール」の入賞者が決まった。全国に誇る同町の魅力「越前がに」と「水仙」を題材に、詩と俳句の2部門で作品を募集した。詩部門に479編、俳句部門に3747句が寄せられ、各部門で大賞、奨励賞、佳作が選ばれた。小学生の部から一般の部までの大賞8点を紹介する。
大賞詩
【小学生の部】
おばあちゃん
幸山 円(織田小4年)
ただいまぁ
家中に広がるいいにおい
今年もげた箱の上に
それと会えなかったおばあちゃんに
水せんの季節がやってきた
お母さんが今年も言う
おばあちゃんに会いたいなぁって
写真のおばあちゃんはやさしそう
本当はぎゅっとしてほしい
おばあちゃん植えたにわの水せん
大すきだった花
今年もたくさんさいている
そうっと顔を近づけてみる
これがきっと
おばあちゃんのにおい
向こうでお母さんがまた言う
おばあちゃんにもう一度会いたい
花ことばは
思い出
【中学生の部】
蟹のメロディー
梅野 裕真(越前中3年)
グツグツグッグツ
おばあちゃんが今年も蟹をゆでている
グツグツグッグツ
グツグツとリズムのいいメロディーが
聞こえてくる
グツグツグッグツ
メロディーに合わせて蟹がなべの中で
おどっている
グツグツグッグツ
となりの蟹とおどってる
グツグツグッグツ
真っ赤になって少し照れているのかな
グツグツグッグツ
みんなすごく楽しそう
グツグツグッグツ
おばあちゃんが奏でるメロディー
グツグツグッグツ
それに合わせて蟹がおどる
グツグツグッグツツツグツツ
「ゆで終わったよ」満面の笑みでおばあちゃんが言う
「今夜は蟹だよ」汗だらけでおばあちゃんが言う
今度は僕の心がおどりだす
【高校生の部】
√蟹
加藤 千尋(北陸高1年)
深海、青海、底に眠る√
わりきれないものたちのへや
永遠にわりきれないものたちの城
√2=一.四一四二一三五六・・・・
√3=一.七三二〇五〇八〇・・・・
そんな大きな手でがばっと
あけたりしないで
左と右、平気で
わけたりしないで
「キトサン」とかいって
粉々にしないで
√の中の私
まだ誰にも見せていない私
おしゃべりすぎる魚でもない
落ちつきはらった貝でもない
私のような私
柔らかくて頑固な
冷んやりして涙もろい
普通すぎる私
私を乾かしてしまう風になんか
触れたくない
私をあたためてくれる光の正体など
知りたくない
今はまだ√の中で
体操お座りをしていたい
【一般の部】
水仙は帰らない
後藤 順(岐阜市)
過ぎ去る日々を
とても大切に神棚に祈った母が
置き去りにしたのは
ガラス窓から射した光に映えた
玄関先にあった水仙の匂い
萎れた水仙を放り出した
花瓶は父が母に贈ったものだ
父さんはまだかい
ぽつりと呟く声が十年も続く
父が逝った翌年に倒れた
母のカレンダーはそのままに
訝しげにぼくを見る
今日こそ父さんが買ってくるよ
水仙をねだる若い母がいる
六畳一間から始まった暮らし
一輪の水仙が彩った豊かさ
息子の名前すら忘れたのに
水仙の香りが脳裏の隅に
今でも仄かに漂っているのか
残業帰りの駅前
眼に止まった特売の水仙が
親孝行でもしろという
病室の父のうわ言が耳底に
純白の花びらが微かに揺れた
おぼつかない母の声が
幾度も秘めた匂いを嗅いだ
水仙が届いたのに
父さんはまだ帰ってこんね
母は家の中を探し回る
悪ふざけする父が隠れていると
押入れや仏壇の裏まで
歩き疲れた母の枕元には
薄明かりに忍ぶ水仙がいる
夜明けまでいてくれたよ
夢の中で父に逢ったのだろうか
裏木戸に立つ母が
水仙をしっかり握った手から
滴り落ちるのは
父を見送った潮っぽい水
母と父との逢瀬をつくる
水仙が今日も窓辺で光を浴びる
命の輝きもいつか闇の中へ
母は父の名を呼び 水やりする
帰らない時を抱きすくめる
母の丸い背中から
水仙の新しい芽が出始めた
大賞俳句
【小学生の部】
すいせんが私を見てと立っている
梶川 詩乃(朝日小5年)
【中学生の部】
水仙が つなぐ心の 温かさ
松村 直紀(朝日中3年)
【高校生の部】
六畳に匂う水仙 母一人
池田安里紗(仁愛女高3年)
【一般の部】
息白く蟹糶の鉦打ちならす
加舎 泰子(京都府亀岡市)