「越前かに」の名付け親、知名度向上に貢献
壁下誠
トップページ > ニュース > 福井のカニは本当にうまい 私は今日も旬に翻弄される さくらのかくし味(2)
私は市場に通う。料理人は市場が大好きだ。旬の食材が所狭しとならび、色とりどりの野菜や魚が季節の移ろいを伝えてくれる。イマジネーションが広がりワクワクする、私にとってはまるでアミューズメントパークなのである。
二十四節気という一年を24等分した暦があるが、365日を24に分けるとなると、たったの15日で次の季節になるということ。和食のジャンルでは、それこそシビアに節気を表現して果敢にチャレンジする料理屋も多くある。
私の店にも「旬の走りを一緒に味わうと二人はますます仲良しになる」と言って、喜んで来店してくださる常連のご夫婦がいる。“初物は縁起がいい”。みんなが笑顔になるなら旬の走りの食材を仕入れたいと思うのが料理人だが、何と言ってもとにかく高い。
もう少し待って旬の盛りが一番だ、と自問自答してはみるがそれでもやはり走りがいい。旬に翻弄(ほんろう)される日々である。
福井はまさに今、越前がにが旬を迎えている。福井のカニは本当にうまい。今月、越前がにを頂く機会に恵まれた。甘みのあるしっとりとした舌触り、鼻に抜ける独特な香りはまさに唯一無二。飲み込んでしまうのが名残惜しいほどだ。この時期の福井でしか味わえない、この食材にしかないものだと改めて感じた。福井が世界に誇る越前がに。世界中に向けてますます発信してほしい。
しかし「越前がには高くて食べたことがない」という声をよく聞く。こんなに残念なことはない。世の中にこの貴重な食材、特に雄のズワイガニを味わう機会を設けていただきたい。
無理を承知で言わせていただくと、毎年大行列の東京目黒のサンマ祭りのように、無料配布の越前がに祭りをやってみてはいかがか?(不可能とは思うが、せめて一口だけでも)
世界に先駆けて、まずは福井県民が越前がにを吟味しなければなるまい。
福井県民無料配布の越前がに祭り、その行列がはるか県境をも超える様子が世界中に発信されるであろう。その際は率先して、応援団として売り子をやらせていただきたい。きれいにさばいて越前がにの素晴らしさを余すところなく発信させていただく。もちろんつまみ食いをするのが目的である。
私は今日も旬に翻弄される。
(フレンチシェフ・秋元さくら=福井市出身)