越前がに(ズワイガニ)の漁が福井県内で6日に解禁され、スーパーマーケットなどの店頭を彩りだした。中でも昨年から売り出した最上級ブランド「極(きわみ)」は、グルメ垂ぜんの的。今季の初競りでは、37万円の最高値を付けた。しかし、県外では、130万円というとんでもない値段を付けたズワイもあるという。全国の「越前がに」のライバルたちの動向を探ってみた。
■先駆者・福井
ズワイのブランド化にいち早く乗り出したのは福井だ。県内4港で水揚げされるズワイ「越前がに」だけに黄色のタグを付ける取り組みで、県水産課は「タグ付けは全国に先駆け、1997年から始めた」と説明する。
他産地との差別化を図る取り組みだったが、ほかの産地のズワイにもタグが付くのは当たり前に。白やピンク、青に緑とさまざまなタグが“乱立”している。一層の差別化を図る必要が出てきた中で、昨年に満を持して福井が打ち出したのが、最上級ブランド「極」だった。
■最上級出現
「極」は甲羅幅14・5センチ以上、重さ1・30キロ以上などを要件とし、さらに「漁業者が『極』だと判断しても、仲買人が同意しないと最終的には『極』のタグをはずす」(同課)という厳格な品質の高さが売り。「極」を仕入れた越前町の道の駅「越前」の販売店は「『極』の宣伝効果で、ズワイ全体の単価も上がってきた」と喜ぶ。
県によると、2015年度の越前がにの単価は、ズワイで全国一の1キロ当たり5211円(漁獲量474トン)。同じくトップだった14年度の5143円(同396トン)から上積みした。
しかし、最上級ブランドはほかの産地にも出現している。鳥取県では地元ブランド「松葉がに」の中から、最上級品を「五輝星(いつきぼし)」と銘打って選別、昨年から売り出した。甲羅幅13・5センチ以上、重さ1・20キロ以上と、基準では「極」より小ぶりながら、今季の初競りでは最高値で130万円を付けた。同県水産課の担当者は「ご祝儀価格と思うが、驚いた」と声を弾ませる。こちらも「全体的な単価も上がった」という。
ただ「首都圏でアンケートを実施したところ、知名度は越前がにが一番で、松葉がにはかなわないのが現状」とも。松葉がにブランドを首都圏で浸透させるために「130万円は、よいアピール材料」と話す。
■北海道は「われ関せず」
このほか、兵庫県香住町の柴山(しばやま)港で水揚げされたズワイの最上級品は2011年から、「柴山ゴールド」という名称で流通。現在の基準は重さ1・35キロ以上などで、地元漁協の関係者は「最上級ブランドづくりに、いち早く取り組んだのは自分たち」と自負する。「確かに首都圏では越前がにが有名だが、選別の厳しさでは柴山が日本一。全国からの注文も増えてきたと思う」と胸を張る。
富山県新湊漁港産のズワイも、1キロ以上の大ぶりなものが今年から「特選」のタグ付きで市場に出始めた。越前がにの地位を虎視眈々(こしたんたん)と狙う産地は多く、福井県水産課は「ほかの産地に負けないよう、今後もさまざまな工夫を進めたい」と強調する。
一方で、北海道はわれ関せず。15年だけで約千トンのズワイを水揚げした一大産地ながら、北海道はやはりケガニやタラバガニが主流。北海道水産経営課は「ズワイですか…。刺し網漁でほかの魚のついでに漁獲されるような感じです。ケガニはブランド化を進める産地もありますが、ズワイを売り出す動きはない」。
北海道産のズワイは食べ放題などで出される場合もあるそうで「年中取れるし、漁期の決まっている日本海側のズワイのような希少性はない」(福井県水産課)。福井の誇る水産物が高級品でないのは寂しいような、安く手に入ってうらやましいような…。