「越前かに」の名付け親、知名度向上に貢献
壁下誠
トップページ > ニュース > 2023年2月 > 令和4年度 越前 蟹と水仙の文学コンクール 優秀作紙上紹介
越前町主催、福井新聞社共催の令和4年度「越前 蟹(かに)と水仙の文学コンクール」の入賞者が決まった。全国に誇る同町の魅力「越前がに」「越前水仙」「越前海岸」を題材にした詩と俳句を募集。詩は題材に「たからもの」をテーマに加えた。詩部門に436編、俳句部門に3592句が寄せられ、両部門で大賞、奨励賞、佳作などが選ばれた。小学生の部から一般の部までの大賞7点、奨励賞16点を紹介する。
■詩
大賞
【小学生の部】
「かにとお父さん」
島田晴翔(四ケ浦3年)
カニりょうになると
ぼくがねているうちに
お父さんはりょうに出かける
次の日の夜は
おきているときに帰ってくる
ぼくはカニりょうについて知らない
お父さんは話もしないし
ぼくも聞かない
お父さんはカニもって帰ってくるけど
ぼくは食べたことがない
いのちがけでとってきたのは
分かっている
何か言わなきゃいけないのも
わかっている
この気持ちが
ぼくのたからもの
【中学生の部】
「家族の大切な水仙」
田中莉穂(越前3年)
私の家は水仙農家
水仙は急斜面に咲く
水仙は潮風に打たれて咲く
その水仙をモノレールに乗って刈りに行く
たくさんの水仙を取ってくる
その水仙を洗う おじいちゃん
水仙の長さをそろえる おばあちゃんとお母さん
それをたばにする お父さんとお姉ちゃん
水仙祭りの時に水仙を運ぶ お兄ちゃん
祭りの店番をする 私とお母さん
店番をしている時みんなに声をかける 妹
水仙はとてもいいにおいだ
水仙はみんなのもとに届くだろう
届いた水仙はみんなのたからものになるだろう
そしてみんなの思い出になるだろう
私にとって水仙は
私を笑顔にしてくれて
私を元気にしてくれる
水仙の一つ一つが一番の思い出であり
一番のたからものだ
【一般の部】
「ちょんぽの子」
林恵(坂井市)
かわいい かわいい ちょんぽの子
泣いてる私をおんぶして 歌うように祖母が言う
ねんねこに包まれユラユラと祖母と私の散歩道
「ほぉら、水仙きれいやろぉ」
一面に咲く水仙は、夕月色に透き通り
岬の風に揺らいでた
かわいい かわいい ちょんぽの子
私の背中で泣く息子
黄昏(たそがれ)泣きと言うらしい
私と祖母の散歩道 息子をおぶって歩いてく
「ほぉら、水仙きれいやろぉ」
背中の寝息を聞きながら、凛と輝く香りを吸う
かわいかった ちょんぽの子
私とつないでいた手を離し 代わりにスマホを握りしめる
雲にはいろんな名前があるのに
彼は気付かず過ごしてる
今日は彼を連れ出して、黄昏泣きの散歩道
私の前を行く彼は、スマホを見ながら歩いてる
風がサァーッと吹き抜けて、振り返った彼が言う
「今の風、水仙の匂いやった」
水仙(はな)の前にしゃがみ込み、撮った写真を私に見せる
「キレイに撮れた。すごいやろ」
少し上向きに言う顔は
あの日と同じ ちょんぽの子
水仙を撮る その横顔を
私は こっそり撮っておく
奨励賞
【小学生の部】
「越前水仙の魅力」
駒野以蕗(織田6年)
あなたはいい香りね
あなたは長持ちね
あなたは強いわね
寒さの中でも花を咲かせるのね
海岸や山のがけでも花を咲かせるのね
色はきれいで三色なのね
花は黄色と白でくきや葉は緑なのね
あなたを作っているのはお年寄りが多いのね
山やがけを登ったり下りたりするのは大変そうね
若い人たちが手伝ってくれるといいのにね
私も大きくなったら手伝いたいよ
あなたが玄関にかざってあると玄関が
明るくなるわ
玄関にいい香りが漂ってお客さんが
いい気持ちになるのよ
あなたは私たち越前町の宝物
宝物だから大事にしていきたいわ
「かにと文具」
木下真昼(朝日5年)
ぼくがかにを赤えんぴつでかく
かにっぽくなる
かにがかにを赤えんぴつでかく
なんかちょっとこわい
ぼくがかにをボールペンでかく
なんかヨボヨボ
かにがボールペン使う
はさみでペンが バキッ
ぼくはノートを使う
かにのノートはきっとビリビリ
ぼくはおとなしい
かには元気
かにのパワーを
わけてもらいたい
【中学生の部】
「ニコっと笑顔」
木本貫太(朝日2年)
カニを食べるとみんなニコっと笑う
子どもがニコっと笑う
大人がカニっと笑う
爺ちゃん婆ちゃんがニコっと笑う
カニを食べるとみんな笑顔になる
楽しい会話をどんどんつないでくれる
楽しい
楽しい
忘れたくない思い出
毎年、心に刻んでくれる
まるでたからもののような時間
カニのように濃い思い出がつまってる
笑顔と会話を送ってくれる
冬の王者
越前蟹
大好きな、大好きな
僕のおいしいたからもの
毎年蟹を買ってくれる婆ちゃん
「ありがとう。」
「春待つ水仙」
坂下美和(朝日2年)
まだ春が遠い
重たい雲がかかる灰色の空
冷たい風に揺れ
小さな笑顔をふりまいている
暖かくなると
太く立派な茎をあらわにして
春風に揺れ
大きな笑顔をふりまく
まるで春を祝福しているよう
その姿は
とても美しく華やかで
心強さが秘められている
その花は
私の心を和まし
私に希望を与えてくれる
そんな可憐ながら力強く咲く水仙よ
いつか花開く私を待っていて
【高校生の部】
「やさしい天然色」
吉田茉央(富山県星槎国際1年)
海岸の方へと急かす風
その風の何倍もの速度で駆け出してやる
自然物が支配する空間は
逆に人工物のようで不思議
荒んだ心を潤す海の呼吸は深い
メトロノームと不仲の波音
重なれないのが不正解なんじゃない
どう重なるかがカギなんだ
定規で引いたような水平線
あの水平線に向かってゆけば
未知なる島に辿りつくかな
自然物と想像力は完結しない物語
特別視されてこなかった自然への親しみが
感謝されるほどにみんなの思いは枯れている
お宝を失ってから価値に気付かないように
海を見に行きたいという気持ちを
青を見て「きれい」と思う尊さを
大きく広げた手の平で撫でる
海も生命も人肌も
そばにいるから抱きしめられる
ぬくもりを感じられる
「予感」
山﨑一帆(若狭1年)
越前がにを食べてみたい
ふとそう思う
他のどんな蟹でもない
越前の雄大な海で生きた
かにを食べてみたいのだ
どんな味がするのだろう
荒波と厳しい寒さに耐えて育つ彼らは
歴戦の猛者を思わせる
ならば私に 彼らの誇りと海の雄大さを
感じさせるのだろうか
それとも 凍える夜 マッチ一本が
少しの温もりをあたえてくれるように
ほのかな甘さを感じさせるのだろうか
そのどちらでもないのだろうか
私が何を感じるのか 定かではない
ただ 私には強く予感していることが
一つある
私と彼らとの邂逅は
私の生涯における
「たからもの」になるだろうということだ
【一般の部】
「帰路」
口野萌(東京都八王子市)
「水仙はもう咲かんのですか」
何年も前に舗装された道で 父が呟く
「舗装されてしもたからねぇ」
数分後にはなかったことになる相槌は少し
無機質な色をしていた
いつかのあの日を歩く父
隣を歩く私は 誰なのか
夕陽に一層深く映し出された皺と
私だけが 彼の軌跡を知っている
「水仙はもう咲かんのですか」
「舗装 されてしもたからね」
繰り返される質問に 進まない歩幅に
はち切れそうな寂しさが
苛立ちのふりをして語気に宿る
「ほうですか」
ばつが悪くなりアスファルトを見つめる私に
父がぽつりと言葉をこぼした
「うちの子が がっかりせんだろうか」
「母のたからもの」
中川嵩登(福井市)
たからもの ってのがある
そのひとの
とても とっても とーっても
たいせつな もの
らしい
でも ひとに
見せたがるのに
触れようと したら
みんな が みんな
とても とっても とーっても
怒りだす
そんなに
触れられるのが
嫌 ならば
せいこ蟹の ね
卵 みたいに
見せなければ いいのに
だいじに だいじに
かかえこんで しまいこんで
見えないように 触れないように
してしまえば いいのに
あ でも
せいこ蟹の お腹の中の 卵
母の お腹の中の わたし
卵も もとは 命だ
たいせつな もの だ
見えるけど 触れさせない
母の たいせつな たからもの
だいじに だいじに
かかえこんで しまいこんで
産まれた 命
人生という 大海で
わたしは 生きていく
詩・講評
心の宝物 表現深く
選者代表 川上明日夫
小学生の部大賞の島田晴翔さん「かにとお父さん」。カニ漁を終えて帰ってくるお父さんの沈黙、黙って迎える家族の安心の沈黙は、わかっているよと理解しあう見えない心の宝物。温かな気持ちへの沈黙こそがありがとうの感謝に。
中学生の部大賞の田中莉穂さん「家族の大切な水仙」は、水仙を真ん中に一生懸命に今日を生きる家族の暮らしの風景、その姿と眺めを映す。憧れと祈りと水仙に、今日の感謝と未来の明日を込めた心の宝物。いい香りの作品でした。
高校生の部の大賞作品は該当なく、残念でした。準ずるものとして今回は奨励賞の吉田茉央さん「やさしい天然色」と、山﨑一帆さん「予感」の2作品を推しました。
選者代表 荒川洋治
一般の部の大賞受賞作、林恵さんの「ちょんぽの子」は、祖母におぶられて、水仙の花の咲く道を通った情景から始まる。その祖母との散歩道は、そのあとも、新しい世界へと引き継がれていくことになるのだ。世代の変化、時の流れも感じとることができる。大賞にふさわしい、すぐれた一編だ。読み返すたびに、感興がある。他にも、心に刻まれる作品がいくつもあった。
■俳句
大賞
【小学生の部】
「水せんの白いかがやき花たばに」
大川紗緒里(織田3年)
【中学生の部】
「水仙は俺の彼女だゆずらねえ」
森下和大(越前3年)
【高校生の部】
「トロ箱に蟹のそばかす映える朝」
重山大雅(丹生3年)
【一般の部】
「聖書から水仙の香の栞かな」
小林和子(東京都練馬区)
奨励賞
【小学生の部】
「水仙のながめる先は日本海」
荒本ひなた(四ケ浦4年)
「新かん線かにをみんなで食べに来て」
高野真菜美(朝日4年)
【中学生の部】
「水仙花あなたにおくる花言葉」
水島弘貴(織田2年)
「水仙を手折って朝の深呼吸」
山下蓮斗(美山2年)
【高校生の部】
「越前がに外国人のとりこになる」
谷﨑裕太(丹生1年)
「県民のみんなが誇る越前がに」
林美香(丹生3年)
【一般の部】
「越前蟹決戦の地は日本海」
亀田勝則(宇都宮市)
「越前岬身を勾玉に水仙女」
山口美智子(越前市)
俳句・講評
自由奔放なる純情
選者代表 坊城俊樹
小学生の部はとにかく自由奔放で面白かった。大賞は大川紗緒里さんの「水せんの白いかがやき花たばに」。誰に対して贈る花束なのだろうか。この時期は卒業したり退職したり。学校の先生がもう退職されることになって卒業生たちからの花束なのかもしれない。どれもすてきな花束。
中学生はもうかなりませてくる。しかしその中の純情も。大賞は森下和大さんの「水仙は俺の彼女だゆずらねえ」。中学生になると好きな子ができたりする。しかしこの主人公はガキ大将のようでもこよなく水仙を愛する心の持ち主。一見わがままそうだが実は優しい。そんな彼は繊細でユーモアのある男になってゆく。
高校生となるとほぼ大人の句。しかし発想が大人よりやわらかく独創的。大賞は重山大雅さんの「トロ箱に蟹のそばかす映える朝」。これはきちんとした写生句。「そばかす」という措辞が魅力的。よくある蟹の表面のツブツブのことだろうが面白い着想。トロ箱の蟹はなにやらまだ新鮮で青年期のものなのか。しかしそんな蟹こそ一番の高値が付くのだろう。
一般の部は傾向が多岐にわたって蟹や水仙のイメージが飛躍したと思った。そして観光用と限らず本格的なものがそろった。大賞は小林和子さんの「聖書から水仙の香の栞かな」。この聖書は誰の物なのだろう。ふと聖書を開くと水仙の香りの栞(しおり)がはらりと落ちた。香水のものかもしれぬが、ここは水仙そのものの香りが染みて作者に届いたと思いたい。聖書の持ち主の嫋(たお)やかな女性からのメッセージのような気がする。
佳作
【詩】▽小学生の部 橋本直樹(清水北1年)森下由理(朝日5年)原美乃(同)淡海遥香(城崎3年)▽中学生の部 鈴木花梨(宮崎2年)武内心音(朝日2年)笠嶋京介(同)千秋心(同)▽一般の部 上野えみ(沖縄県)瀬戸内光(山口県)山口明彦(越前町)
【俳句】▽小学生の部 齋藤史明(岐阜県大垣東4年)佐々木茉莉江(織田3年)山内勘太郎(宮崎5年)▽中学生の部 伊部泰雅(織田1年)小橋仁(宮崎1年)山本一(越前2年)▽高校生の部 田中暁也(丹生2年)川口一希(同1年)青山美咲(同2年)▽一般の部 阿部麻衣(東京都)津田道代(坂井市)荒井ゆきゑ(越前町)
越前町商工会長賞
【俳句】▽小学生の部 坂本龍冴(朝日4年)▽中学生の部 木原瑠奈(宮崎3年)▽高校生の部 福士真菜(丹生2年)
県農協組合長賞
【詩】▽小学生の部 林賢太郎(四ケ浦2年)▽中学生の部 水頭菜乃(朝日2年)
越前町漁協組合長賞
【詩】▽一般の部 川口尚美(福井市)【俳句】▽一般の部 牛島忠弘(長野県)
越前町観光連盟会長賞
【詩】▽一般の部 三津谷和子(勝山市)【俳句】▽一般の部 菅宏史(愛媛県)
選者
【詩部門】荒川洋治(現代詩作家)、川上明日夫(詩人)、今村秀子(詩人)、張籠二三枝(文学研究家)
【俳句部門】坊城俊樹(俳誌「花鳥」主宰)、水上啓治(幹俳句会名誉同人)、和田てる子(「雪解」同人)、村田浩(俳人協会幹事)
表彰式は、3月4日(土)午後1時30分から町越前コミュニティセンターで行われます。新型コロナウイルスの感染状況により、変更、中止になる場合があります。