漁船と連携し品質を判断
田村幸次
トップページ > ニュース > 2013年1月 > カニはなぜ冬の味覚か BAYわかさ、今攸
越前ガニは「冬の味覚」の代表として全国に紹介されます。しかし、カニは一年中、福井県の沖に生息しています。また、夏のカニは冬に劣らずおいしいのです。いや、むしろ水ガニのいない夏はすべてが硬ガニですから、冬よりもおいしいとさえ言えます。それにもかかわらず、なぜ冬にしか漁獲しない、冬の味覚となっているのでしょうか。
越前ガニ漁業の発祥地は福井県の越前地方と考えられ、三百年ほど前の江戸時代に書かれた福井領の産物帳には「取得かたき時節も御座候」との注意書きを加えて、「ずわいがに」として登場しています。
当時も今と同じく、遠い、深い海に生息していたはずですから、風と人力が頼りの帆かけ船では、漁場までの往復に大変な時間を要したことでしょう。荒れる冬の海での操業よりも、穏やかな夏の海での操業が好まれたことは容易に想像されます。
しかし、当時は夏に氷を得ることはできませんから、漁獲物の鮮度はすぐに落ち、特に傷みの早いカニは真っ黒になってしまったことでしょう。そこで、夏の操業はやむなく断念したと考えられます。
冷凍設備が充分に整った今でも、底引き網の漁期は九月から五月までで、夏の三カ月間は操業禁止になっているのは、このような歴史を受け継いだ結果だと考えられます。中でもカニは食中毒を恐れて、漁期を真冬に限ったのでしょう。
つまり、歴史的な背景が越前ガニを冬の味覚として育ててきたと考えられます。
今では、冷凍ガニは無論、生きたカニでも外国産なら真夏に食べることができます。でもおいしい物は季節感とともに、それもお正月に、が一番です。ですから越前ガニはいつまでも「冬の味覚」であり続けてほしいのです。
今攸(こん・とおし) 県水産試験場長。北海道生まれ。県水産課参事を経て平成2年から同場長。敦賀市平和町。55歳。