長年の経験と技術でカニの居場所探る
中野良一
トップページ > ニュース > 1998年8月 > 越前ガニブランド守る黄色タグで成果 ”再使用”疑うケースも
坂井町上関の肉牛生産農家、友田直典さん(55)が、初めて神戸の市場に若狭牛を出したのは十五年前。思ったより良い値が付き、キロ単価では及ばなかったものの、一頭トータルの値段では神戸牛を上回った。「これなら神戸の市場に食い込める」。友田さんの期待は膨らんだ。
でも、それは一年目だけだった。その後は神戸牛が値を上げ、若狭牛との格差が開いていった。友田さんが実感したのは、ブランド力の差。「神戸側が自分のところのブランドを守るため、テコ入れしたんだと思います」
今、神戸の市場に出すと、枝肉格付けが同じでも若狭牛と神戸牛では、キロ五百円違う。四百キロの牛だと一頭で二十万円の差がついてしまう。ところが、神戸牛のいいものがないときには、若狭牛がキロ二百円ぐらい高めに取引される。「恐らく”代用品”として神戸牛になっているんだと思います」
「確かにそうした話は聞きますね」と、県内の食肉業者も話す。若狭牛が関西方面で神戸牛や松阪牛に”変身”しているらしいのは、業界では「暗黙の了解」だという。
「有名ブランドがいっぱいある中で、店にしてみれば、知名度で劣る若狭牛の名前では実際売れないということでしょう。おいしさでは決して負けていないのに」と友田さんは話す。本来の肉質以上に重視されるブランド。「確立するには、相当な努力とお金もかかります。弱小ブランドでは、どうのこうの言えません」
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食の世界でも大きな力を持つブランド。追う立場の若狭牛に対し、ブランド死守に懸命なのは越前ガニだ。
「最近は山陰より北海道から入ってくるズワイガニが多い。でも土産物店や民宿では、わざわざ『北海道産』と断っているところは少ないでしょう」と、越前町漁協の土田臣一郎参事(51)。結果として県外産のズワイガニが「越前ガニ」として出回っているケースも少なくないという。
県内産の二倍以上とも言われる他県産のカニの流入。脅かされる越前ガニのブランドを守るため導入されたのが産地表示タグだ。県内の漁港に水揚げされたズワイガニの脚には、正真正銘であることのお墨付きが付けられる。
県内の他の漁協に先駆け、越前町漁協がタグを導入してから三シーズン目。「県外産の安い価格に押され、越前ガニの下落が続いていたが、ようやく歯止めがかかりました」と、土田参事は成果を話す。
ところがタグ導入には思わぬ”副産物”も生まれた。「タグの横流しのうわさが出ましてね。今は組合長室に厳重に管理し、競りの直前に取り付けるようにしています」。民宿では、外されたタグが、カニに添えて出され、”再使用”が疑われるケースもあったという。
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「ブランドの世界では、本物がよければよいほど偽物が登場しやすい。本物と偽物のせめぎ合いはこれからも続くでしょう」と、幅広いマーケティング調査を展開するシモナカインターナショナル(福井市)の下中ノボル社長(65)は話す。
差別化を狙って食のブランド化はますます拍車がかかるが、「ブランドを、高く売るためだけのイメージアップの手段にしようとすると、消費者は売り手側の意図を見抜いてしまう」と指摘する。
消費者が食のブランドに求めるのは安心感。ブランド力を高めていくには、この声にこたえる必要がある。「売り手側、作り手側の顔や姿が見えるように、ブランドの理念をメッセージとして消費者に伝えないといけない」と強調した。